小田川浩三(おだがわ・こうぞう)さん 69歳 青森県五所川原市 妻の多加代さんと共にポタリングし、居住地の豊かな自然に触れ、喜びを分かち合う。岩木山を背に岩木川の土手で 取材/原口真吾(本誌) 写真提供/小田川浩三さん

小田川浩三(おだがわ・こうぞう)さん
69歳 青森県五所川原市
妻の多加代さんと共にポタリングし、居住地の豊かな自然に触れ、喜びを分かち合う。岩木山を背に岩木川の土手で
取材/原口真吾(本誌) 写真提供/小田川浩三さん

安全に配慮して自転車を楽しむ

 生長の家教職員会(*1)の会長を務める小田川浩三さんが、日常の足として自転車を使うようになったのは、5、6年前のこと。高校の教員を定年退職し再任用終了後、自家用車を2台から1台に減らしたことがきっかけだった。

「妻が車を使うので、私は自然に自転車に乗るようになりました。小雨くらいなら雨具を着て出かけられますが、雨が強いとそうもいきません。でも、天気に合わせて自転車を使う生活に慣れてくると、急いで何かをしようという気持ちがなくなり、今日が無理なら明日やればいいやと、ゆったりと構えられるようになりました」

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 2台ある自転車のうち1台は、中学生の頃に金物店を営んでいた実家の仕事の手伝いをして買ってもらったもので、これまでメンテナンスをしながら大切に乗ってきた。修理が必要なときも、できるだけ新しい部品を購入せず、子どもたちが学生時代に使っていた自転車の部品を再利用しているという。

 小田川さんが住む五所川原市では、毎年11月下旬になると雪が降り始めるが、道路の除雪が行き届いているため、天気の良い日は自転車を走らせることができる。しかし、日が傾くと気温が下がり、凍結するため注意が必要になる。

「ある冬の日の夕方、道路を右折した時にタイヤが薄氷の上で滑り、転倒したことがありました。幸いヘルメットを着用していたので、肩と足の軽い打撲だけで済みましたが、それからは走行する時間帯を考えるなど、より安全を意識するようになりました」

 今では、出発前にタイヤの空気圧や、ブレーキの利き、車輪の回転などを確認し、ヘルメットと手袋を着用して、ズボンの裾がギアに巻き込まれないよう、右足の裾をベルトで留める。

「穴が多い構造のヘルメットは、冬など風が頭に当たって寒いんですが、ヘルメットの下にサイクルキャップを被れば、風が通らず快適なんですよ」

すべてのいのちに愛を広げて

 小田川さんは、昔から気分転換に岩木川沿いをポタリング(自転車での散歩のこと)するのが好きだったという。

「遠くに見える岩木山や、川のせせらぎ、鳥の声、風の感触、草のにおいなど、五感を働かせて自転車を漕いでいると、生長の家で学んでいるように、人間も自然の一部であり、自然と人間は本来一体なんだと実感します」

 母親を通して「人間は神の子である」という生長の家の教えに触れた小田川さんは、大学時代には青年会(*2)に入り、人のために愛を行ずることの大切さを学んだ。今、その愛は動物や植物、昆虫など、地球に生きるすべてのいのちへと広がっている。

「去年の春からは、妻と一緒にポタリングを楽しむようになりました。さまざまな表情を見せてくれる自然に触れ、二人で喜びを分かち合っています」

郷土の歴史に目を向ける

 豊かな地元の自然に意識が向くと、地域の人々が自然とどのように関わってきたかにも興味が湧くようになった。

岩木山を遥かに見渡しながら岩木川に沿って走ると、美しい自然を肌で感じることができる

岩木山を遥かに見渡しながら岩木川に沿って走ると、美しい自然を肌で感じることができる

 五所川原市の年中行事である「虫おくり」の由来について、図書館で調べると、毎年田植えを終えた時期に、頭は木彫りの竜、胴体を稲わらで作った「虫」を、村はずれの一番高い木の枝に掛け、五穀豊穣と無病息災を祈願する祭事だと分かった。さらにはその虫が掛けられている神社にも訪れ、写真に収めたりした。

「昔の人は、作物に害を与える虫を駆除するのではなく、ふさわしい場所に送り、豊穣を祈ったんですね。自然と敵対するのではなく、棲み分けと生かし合いによって共存共栄するという、現代では忘れられつつある価値観が根底にあったんだと気づきました」

 こうした発見をSNI自転車部(*4)のフェイスブックグループで発信すると、全国のメンバーから多くの反響が寄せられた。

「自然と触れ合う楽しさを教えてくれ、自然と人とのあり方に深い気づきを与えてくれる自転車は、私のかけがえのない“相棒”です」

 そう言って朗らかに笑った。

*1=生長の家の教育関係者の組織
*2=12歳以上39歳未満の生長の家の青年男女の組織
*3=2021年4月、生長の家が「脱原発」と「低炭素社会」の実現を目指して開催した自転車によるリレーのこと
*4=SNI自転車部は、生長の家が行っているPBS(プロジェクト型組織)の一つ