和氣實利(わけ・みとし)さん│64歳│愛媛県西予市

取材/原口真吾(本誌)

生長の家の練成会*1に参加したことがきっかけで、感謝の大切さに気づき、日常的に感謝の言葉を唱えるようになった。すると、悩んでいた再就職の問題が解決しただけでなく、続けて発症した心筋梗塞と脳梗塞も、感謝の言葉を唱え続けることによって後遺症もなく癒やされた。

*1 合宿して教えを学び、実践するつどい

「『あなたは素晴らしい神の子です。ありがとうございます』と、道行く人たちを祝福しながら通勤しています」と語る和氣さん。自宅の庭で(写真/遠藤昭彦)

「『あなたは素晴らしい神の子です。ありがとうございます』と、道行く人たちを祝福しながら通勤しています」と語る和氣さん。自宅の庭で(写真/遠藤昭彦)

日々、感謝誦行を実践して

 
「40歳を過ぎたときに、勤めていた会社が倒産し、建築関係の会社に移ったんです。ですが、人間関係で躓いてしまいまして……」

 と、和氣實利さんは語りはじめた。

 その頃、取引先から荒い口調で電話が掛かってくることがよくあった。自分のコミュニケーションの取り方に問題があるのかもしれないと思い、次第に同僚に対しても心の壁をつくるようになった。そのことで、かえって陰口を言われているのでは、という不安に苛まれるようになった。

 それでも、妻や子どもたちのことを思い、我慢して仕事を続けていたが、ある日のささいなトラブルが最後の一押しとなって限界を超え、衝動的に会社を辞めた。

inoti_turning_2

「すぐハローワークに通って仕事を探したんですが、やはり年齢のせいか、なかなか次の仕事が決まりませんでした」

 2カ月、3カ月と経つにつれて焦りが募っていった。妻は努めて普段通りに接してくれたが、内心イライラしているのが手に取るように分かり、苦しさが増した。

 そんなとき、小学生の頃に母親に連れられて生長の家の青少年練成会に参加し、感動したことを思い出して、生長の家宇治別格本山*2で開かれる練成会に参加した。
*2 京都府宇治市にある生長の家の施設。宝蔵神社や練成道場などがある

inoti_turning_4

「人間は皆、神からいのちを与えられた神の子であると教えられて、職場での人間関係のトラブルは、相手を同じ神の子として拝まず、自ら壁を作って心を閉ざしていたからかもしれないと反省しました」

 浄心行*3のときに思い当たったのは、子どもの頃、厳しい父親に反発していたのが、心の壁を作る始まりだったということだった。自らの身に照らして、もし自分の子どもに拒絶されたらどんなに悲しいことかと、初めて父親の気持ちに思い至った。
*3 過去に抱いた悪感情や悪想念を紙に書き、生長の家のお経『甘露の法雨』の読誦の中でその紙を焼却し、心を浄める行

「父に申し訳ないことをしたと涙が溢れて止まらなくなり、心から懺悔しました。これからは、父母への感謝、ご先祖様への感謝、周りの人など、天地一切のものへの感謝に徹しようと決意したんです」

自宅は山間の小高い場所にある(写真/遠藤昭彦)

自宅は山間の小高い場所にある(写真/遠藤昭彦)

 練成会から戻ると、毎日時間を見つけて「ありがとうございます」と唱える感謝誦行*4を実践した。さらに、妻や子どもたちにも感謝の言葉を掛けるようにすると、家の中が明るい雰囲気になって、久しぶりに会った姉から「表情が明るくなったね」と驚かれた。
*4 「ありがとうございます」と感謝の言葉を連続して唱える行

 それから間もなく、ハローワークで応募した会社から連絡があり、面接、内定とトントン拍子に話が進み、新しい仕事に就くことができた。

「『問題は神に委ねよ』と生長の家で学びましたが、この経験を通して、無条件の感謝こそが神に全托することなんだと実感しました」

感謝で心筋梗塞を克服

 
 ところが、6年ほど前の冬の夜、和氣さんの身に異変が起きた。

「胸を押さえつけられるような息苦しさがあり、吐き気も覚えて、トイレに行こうと起き上がったところで意識を失いました」

 気がついたときには、頭から襖に突っ込んで倒れていたが、その瞬間、口から出てきたのは「ありがとうございます」という言葉だった。

inoti_turning_5

「何度も唱えているうちに、気分が良くなってきて、その場で眠ってしまったんです。朝になって目が覚め、起きようとすると、体がふらついていたので、1階で寝ていた妻に声をかけて救急車を呼んでもらいました」

 救急車の中でも、何かに包まれて守られているような安心感があり、恐怖心はなかった。病院に到着すると心筋梗塞と診断され、すぐに手術が行われた。その際、動脈硬化による血栓も見つかり、1週間後に再手術することになった。

「入院中も感謝に徹し、薬を出されても、注射を打たれても、食事を運んでもらっても、『ありがとうございます』と唱えました。1週間後に再検査すると、血栓が消えていて手術しなくてもよくなったんです。もう感謝しかありませんでした」

脳梗塞が自然治癒して

 
 喜びも束の間、それから1年も経たないある日の夜半、再び違和感に襲われて目が覚めた。

「左腕と顔の左半分が痺れている感覚がありました。普段から左向きに寝ているので、そのせいかもしれないと再び寝入ったのですが、朝起きると左腕の感覚がまったくなく、手も開かないので驚きました」

 一瞬不安がよぎったが、不思議なことに「大丈夫、必ず動く」という確信のようなものがあり、「ありがとうございます」と唱えながら起き上がって着替えをしていると、指がかすかに動き出すのが分かった。

家庭菜園で実ったナスを眺める。「野菜にも『ありがとう』と声をかけて育てています」(写真/遠藤昭彦)

家庭菜園で実ったナスを眺める。「野菜にも『ありがとう』と声をかけて育てています」(写真/遠藤昭彦)

「着替えが終わる頃には、顔のしびれは多少残っていたものの、左腕は動かせるようになっていました。後日、病院に行くと、医師から『脳梗塞の痕跡らしきものがあるけれど自然治癒している』と言われました」

 そのとき、「私は生かされている。ありがたい」という感謝の思いが、心の底から湧いてきたという。

「自分の力で生きているのではなく、神様に生かされている、だから何も心配する必要はないんですね。これからも『ありがとうございます』と唱えながら生きていきます」
 
和氣さんは、そう笑顔で語り終えた。