服部雄一郎(はっとり・ゆういちろう)さん
1976年、神奈川県生まれ。東京大学総合文化研究科修士課程修了(翻訳論)。神奈川県葉山町役場のごみ担当職員としてゼロ・ウェイスト(ごみをゼロにする)政策に携わり、アメリカのUCバークレー公共政策大学院に留学。その後、廃棄物NGOのスタッフとして南インドに滞在。現地のエコビレッジで見たサステイナブルな暮らしの創造性に衝撃を受け、2014年に高知県香美市に移住して自ら自然に近い暮らしをスタート。その模様をブログやSNSで発信している。著書に、『サステイナブルに暮らしたい』『サステイナブルに家を建てる』(共にアノニマ・スタジオ)、訳書に、『ゼロ・ウェイスト・ホーム』(アノニマ・スタジオ)、『プラスチック・フリー生活』『土を育てる』(共にNHK出版)などがある。
高知県の山の麓に住み、簡素な食生活を送る
──ご著書『サステイナブルに暮らしたい─地球とつながる自由な生き方』(アノニマ・スタジオ)には、楽しく心地よいサステイナブルな暮らしを、自ら実践されている様子が書かれていますね。
服部 ありがとうございます。自宅があるのは、高知県東部、香美市の山の麓にある自然豊かな田舎で、妻と3人の子どもと一緒に暮らしています。とはいえ、高知市内までは車で45分ほど、高知龍馬空港までは30分ほどですから、そこそこ便利なところではあります。
食生活は簡素で野菜がメインです。普通のお宅なら副菜になりそうな「豆腐サラダ」なども、わが家では主菜といった具合です。ランチの定番は野菜だけのパスタですが、夕食は「白ご飯+みそ汁+納豆」といった一汁一菜(いちじゅういっさい)の場合もよくあります。
そんな素食だと物足りないのではと思う方がいるかもしれませんが、野菜中心のシンプルな食事は胃もたれしませんし、いろんな調味料などを使った派手な味付けにかき消されないので、素材本来の味を充分に味わうことができます。洗い物も簡単で、排水が汚れないのも嬉しいですし、つくづく素食は理に適(かな)っているなと思っています。
──食材の買い物については、何か工夫されているんですか。
服部 食材は把握できる分だけ買って、できるだけ使い切るようにしています。野菜や果物は自分の畑で採れたものや、おすそ分けでいただいたもの、近所の生産者さんから直接購入したものでまかない、お店で買うことはあまりないですね。
卵は近所の生産者さんのところに容器を持参して出かけ、まとめ買いしたり、醤油、酢、油などの調味料はリターナブルな一升瓶で購入したりしています。パンは“捨てないパン屋”として知られているブーランジェリー・ドリアン*1からの定期便が中心で、納豆も山形の豆むすめ*2から、数カ月に一度、有機栽培豆を使ったものを友人と共同購入しています。これらは、購入するというよりは、「つくっている方からゆずっていただく」という感覚ですね。
*1 https://derien.jp/product/555/
*2 http://stylelinkage.jp/mamemusume/index.php/
日本ではいま、農業従事者の高齢化が進み、食料自給率はカロリーベースで37%と言われています。消費者が外国のものを安く買おうとすればするほど、生産者は苦しくなり、農業離れが進みます。その意味でも、生産者さんに適切な代金を支払って購入するということを、大切にしたいと思っています。
──スーパーでの買い物の際に、心がけていることはありますか。
服部 賞味期限、消費期限切れの商品は処分されてしまい、食品ロスにつながるので、できるだけ期限が迫っているものを選ぶようにしています。たとえ期限が切れても問題なく食べられるものが多いので、牛乳が、期限間近で割引になっていたら多めに買って、プリンやホワイトソースを作ったりします。子どもたちは喜びますし、ささやかではあっても廃棄を減らせるので一石二鳥です。
ラップフィルムなど使わず、食品保存にひと工夫
──食材の保存はどのようにされていますか。
服部 作り置きのおかずや使いかけの食材の保存は、ガラス瓶をフル活用しています。透明で中身が見えやすいので、冷蔵庫に並んでいても何が入っているかひと目で分かりますし、並べた時、カラフルできれいに見えるのも魅力ですね。
ガラス瓶で一番のお気に入りは、ドイツのWECKのキャニスターで、これは、ガラスの蓋を載せるだけというシンプルで過不足のないデザインです。一般的な瓶と違って、蓋の裏にプラスチックもついていないので、完全プラスチックフリーです。
また、ステンレス製の弁当箱も活用していて、その横長の形状は、ちょっとしたおやつの残りなどを入れておくのに便利です。ホーロー容器も、そのまま火にかけられるので使い勝手がいいです。
──いろいろ工夫されていますね。
服部 できた料理を冷蔵庫に入れておく場合は、お皿にボウルなどをかぶせます。逆にボウルで下ごしらえしたものは、平たい皿をかぶせて保存します。野菜類は蜜ろうラップでくるんだり、大きなサイズのパンを保存する時などは、小麦粉や砂糖が入っていたジッパー式の袋を清潔に保管しておいて、再利用したりします。そのため、食品用ラップフィルムやフリーザーバッグは、なくてもまったく困りません。
台所まわりもプラスチックフリー
──台所まわりのプラスチックフリーにも心がけておられるとか。
服部 わが家では、特にプラスチックフリーを意識していなかった頃から、木製、ガラス製、ステンレス製の道具を好んで使っていたので、昔も今も、プラスチック製の台所用品や調理器具はほとんどありません。プラスチックは壊れやすいし、汚れもつきやすいので、台所まわりをプラスチックフリーにするのは、とても当を得たものだと思います。
先ほど言いましたように、保存にもガラス瓶などを使い、ラップフィルムやフリーザーバッグは使っていませんし、キッチンカウンターもステンレス製なので、台所まわりのプラスチックフリー化は、かなり満足のいく状態です。
──食器を洗う道具は、何を使われているんですか。
服部 食器洗いには、もう10年以上びわこふきんを愛用しています。これは、洗剤を使わずにお湯だけで食器が洗えるコットン100%のふきんで、洗濯機で洗えますし、熱湯消毒や煮洗いもできて、しっかり乾かしてから使えるので、常時湿っている一般的な台所スポンジよりもむしろ清潔に使えます。
油汚れもお湯で洗えば大丈夫ですが、洗剤を使った時のようにすっきりピカピカにはなりにくいので、気になる場合は、重曹や石けんを少しつけて洗います。ちなみにわが家の秘密兵器はパスタのゆで汁で、これをかければ一撃で油汚れもスッキリ落ちます。うどんや麺類、野菜のゆで汁にも似たような効果があるので、洗剤代わりに活用しています。
──排水をできるだけ汚さないようするための工夫ですね。
服部 都会の人はほとんど意識する機会がないかもしれませんが──かく言う私もその一人でしたけれども──台所からの排水を汚さないのはとても大切なことです。今、住んでいる地域は下水が整備されていないので、いろいろ考えた末、台所排水は敷地内の庭で浄化しています。多孔質の軽石で分解を進め、植物などに油分などを吸い取ってもらい、最後は土にしみ込ませるんですが、それも洗剤を使わないからこそできることです。
下水道や浄化槽も、汚水を完璧に浄化してくれるわけではないし、浄化には多くのエネルギーを使うので、やはり台所からの排水をできるだけ汚さないに越したことはないと思っています。
生ごみは燃えるごみに出さずすべて土に還す
──生ごみはどうされていますか。
服部 生ごみは、燃えるごみには出さずに土に還しています。処理しやすいコンポストも使っていますが、ただ土に埋めるだけでも、微生物が自然の力で跡形もなく分解してくれます。これでごみは激減しますし、何よりごみ箱がにおわなくなり、とても快適です。
よく魚の骨は土に入れてはいけないとか、玉ねぎの皮は分解しないなどと言われますが、それは分解に時間がかかるというだけのことで、わが家は庭が広いので、臆せず土に還しています。かびたもの、揚げ油の残りだって、すべて土が受け止めてくれます。自然というのは、そういうものですね。
──土に埋められないという人は、コンポストを使うことになると思いますが、お勧めのコンポストはありますか。
服部 私は以前、町役場のごみの部署で働いた経験があって、そのときにいろいろな種類のごみ処理を試しました。「生ごみが消えるタイプ」「堆肥ができるタイプ」「虫が湧かないタイプ」などいろんな特長を持ったコンポストがあり、マンションのベランダでもできる「ベランダdeキエーロ」「段ボールコンポスト」「LFCコンポスト」などもあります。ニーズに合ったものが選べますので、まだやっていないという方は、ぜひチャレンジしていただきたいと思います。
町役場のごみの部署で働き、ごみの問題に関心を持つ
──ところで、現在のような「サステイナブルな暮らし」をされるようになったきっかけは?
服部 私は大学を出てから、東京で音楽や舞台芸術制作の仕事をしていました。妻も、当時は大学の事務室で働き、二人でグルメガイドを片手に外食三昧、気に入った洋服ブランドでシーズン毎に服を買い替えるといった、都市型の生活を楽しんでいたんです。
そんな20代の終わりに一番上の子どもが生まれ、「もっと楽しく子育てがしたい」と思うようになって、郊外の神奈川県葉山町に引っ越しました。その時、たまたま募集があった町役場に転職し、ごみの部署に配属されたのです。正直、「よりによってなぜごみの部署に?」と思わないこともなかったのですが、仕事は待ったなしで、ごみの分別の仕方などをいろいろ質問されるんですね。
そのため、必死で分別のルールを頭に叩き込むうちに、これは自分でやってみないと埒(らち)が明かないと、資源ごみをきっちり分別し、庭にもコンポストを設置してみました。すると、それまで週2回、必ず出していた燃えるごみがほとんどなくなってしまったんです。
──それが、新鮮な驚きだった?
服部 燃えるごみの半分近くは生ごみですから、生ごみを処理すれば燃えるごみが一気に減るのは当たり前なんですが、当時何も知らなかった私は、「特に減らそうと思ったわけではないのに、ごみがほとんどなくなった」ことに衝撃を受けました。
ちょうどその頃、葉山町では、高額なごみ処理費がやり玉にあがり、議会で問題視されていて、こんなに簡単にごみは減るのに、たくさんの税金を使ってごみを処理していることに疑問を感じていました。それをきっかけに、ごみ問題に関心を持つようになったんです。
ゼロ・ウェイストのメッカ
アメリカのバークレーに留学
服部 また、その頃、葉山町では大規模なごみ処理施設の建設計画に異を唱えて、「ゼロ・ウェイスト(ごみをゼロにする)」によるごみ減量計画を求める市民運動が起きていました。自分の生活の中で、「ごみは本当に減らせる」と実感していたので、このゼロ・ウェイストは、現実的で的を射た考え方だと思いました。
それで、海外のゼロ・ウェイストの事例をリサーチするうちに、日本が実はごみ焼却大国であることや、日本ほど細かいごみの分別をしている国は他にないくらいなのに、なぜか、資源化率は異様に低いことなどが分かってきました。それまでは遠くのことのように思っていた環境問題が、いきなり足元で見つかったような、自分の生活が世界とつながったような気がして、海外のごみ処理や、ゼロ・ウェイストの現実をこの目で見たいという気持ちが湧いたんです。
それで町役場を退職し、ゼロ・ウェイストのメッカであり、アメリカで一番リベラルな都市と言われるカリフォルニア州バークレーにある公共政策大学院に、妻子を連れて留学し、2年間学びました。
──すごいですね。そこでどんな勉強をされたんですか。
服部 主に環境政策の最適化のための経済学や統計学のスキルを学んだんですが、一番大きかったのは、学生コンサルタントとして関わらせてもらったカリフォルニア州政府の廃棄物部局や、インターンをしたゼロ・ウェイストNGOなどのさまざまな施設で、ゼロ・ウェイスト政策の第一線の現場を見聞できたことです。日本とは違い、スピーディーに資源化を推進する様子を目の当たりにして驚嘆しました。
──バークレーの人たちからも、大きな影響を受けた?
服部 そうですね。バークレーには、明るくオープンで、理路整然とした人が多いんです。その「ブレない」「揺らがない」パワー溢(あふ)れる生き方は、その後の私の人生の大きな力になりました。今でも、暮らしの中で「うーん、これはどうしたらいいんだろう?」ということが出てきた時には、「バークレーの人たちだったらどうするかな」と頭の中でイメージしたりします。
日本人は失敗を恐れて後ろ向きになったり、自分を卑下(ひげ)したりしがちですが、カリフォルニアの人はずっと信念を貫きます。そのポジティブさはすごく印象的で、私自身も、もっと自分が信じる道を自信を持って進んでいこうと思えるようになりました。
インド、オーロヴィルで味わった鮮烈な感動
──2年間の留学の後、どうされたんですか。
服部 その後、家族でインドのチェンナイに行き、ゼロ・ウェイストNGOのオフィスで、短期スタッフとして働きました。わずか半年でしたが、私の人生にとっては、一、二を争うようなとても濃密な時間でした。
インドは人口13億という大国ですが、そこから出る大量のごみを適切に処理できる施設が国内にほとんどないんです。壊滅的なごみ事情を抱えていて、集めたごみは町はずれにただ山積みにされ、そこに貧しい人々が住みついて、劣悪な環境の中で、ごみの中から資源として売れるものを探し出して生計を立てていました。
法律では既にごみ処理施設の建設が決められているにもかかわらず、施工が何年経っても進まないという、何とも絶望的な状況でした。これをどうしたら打開していけるのか、まったく分からずに呆然としていた時に、オーロヴィルというエコビレッジに小旅行する機会に恵まれたんです。
──オーロヴィルというのは、どんなところですか。
服部 インド南東部のタミル・ナードゥ州にあって、フランスからの入植者たちが30年以上かけて築いてきた国際的なコミュニティです。世界各国から人々が集まり、ソーラー発電やコンポストトイレを設置する、廃材の窯(かま)でパンを焼く、自然農法を行うなど、さまざまなエコロジカルな営みが行われていました。
すごく心地よい雰囲気で、すべてがクリエイティブで、空気もきれいですし、植物までもが生き生きとしていて、何だか自然や大地とすっとつながれたような実感をもったんです。当時の私は、転職のための情報収集に奔走していたのですが、そんな思い煩(わずら)いとは遥か別次元の、こんなにも魅力に溢(あふ)れた世界があったことに強い印象を受けました。
思わず、「自分もこんな心地よい場所に住みたいな」と感じた時、突然、はっと思い当たりました。自分はずっと「サステイナビリティ」を志向してきたつもりだったけれど、実は机上で論じることしかしてこなかった。そして、本当は「自分自身がもっとサステイナブルに生きてみたいのだ」と。
環境問題は政策や高度な分析抜きには解決されませんが、同時に、政策や分析では到達できない次元があると見せつけられた気がしました。何より自分自身がそういう暮らしをしてみたい。そしてその楽しさが、ほかの人たちにも少しずつ伝わっていったら、それこそが自分にできる「社会を変えることなのではないか」と、そう感じたんです。
それで帰国し、より自然に近い移住先を探し始めました。そして、たまたま訪れた高知のおおらかな人々と自然に引き寄せられ、2014年の9月に移住し、自分たちなりの「サステイナブルな暮らし」に向けて、一歩を踏み出しました。
たくさんの人が、簡単にできることを着実にやる
──最後に、読者へのメッセージをいただけますか。
服部 世界を見ると、欧米には、ごみやプラスチックをほぼゼロにできているようなすごい人が存在します。そうした人たちは本当に大きなインスピレーションを与えてくれますが、翻(ひるがえ)って、そんな領域に到達できる人は、100人に1人もいません。しかも、そんなすごい人たちが、せっかくごみをゼロにしても、100人のごみの量は1%しか減らないんです。
でも、もし100人全員が自分のごみの量を3割減らしたら──3割減らすのは、少し気をつければすぐ達成できるはずです──100人のごみの量は一気に30%も減るわけです。一人が離れ業のようなすごい成果を挙げるより、多くの人が、簡単にできることを着実にやるほうが、ずっと効果があるのです。
一人ひとりが簡単にできることをやらないために、それが巡り巡って環境問題の解決をややこしくしていると感じています。そういう視点に立てば、別にすごいをことをしなくても、簡単にできることをやるだけで十分に意味はある。レジ袋を断るという、本当に簡単で些細なことでさえ、巡り巡れば、地球を守ることにつながるわけで、一人ひとりの小さなアクションが地球を救う大きなパワーになります。
とはいえ、世の中にはさまざまな事情があって、何かしたいと思ってもできない人もいます。ですから、もし自分に余裕があるならば、そういう人たちの分まで頑張るというくらいの意気込みで取り組めると、よりいいのではないかと思います。
聞き手/遠藤勝彦(本誌) 写真/堀 隆弘