青じその実の天ぷらや真黒(しんくろ)なすなど、新鮮な野菜を使った料理が目を楽しませてくれるランチプレートに、無農薬・無化学肥料のお米を炊いたご飯。
その美味しさに、思わず笑みがこぼれる。
訪れたのは、Aさん夫妻が営む自然食カフェ、「YUINOTE histoire(ゆいのて イストアール)」。
のどかな田園地帯のなかにあるお店には、穏やかな時間が流れていた。

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撮影●遠藤昭彦

A.S.さん
富山県南砺市・55歳
取材●中村 聖(本誌) 

 富山県南砺市にある自然食カフェ、「YUINOTE histoire」のドアを開けると、A.S.さんと夫のHさんがにこやかに出迎えてくれた。

 築60年ほどの古民家を改装したという店内は、古いものと新しいものがさりげない形で共存し、居心地のいい空間を作っている。

「2020年の12月にオープンして以来、美容や健康に関心のある女性を中心に、ご家族連れやアスリートの方など、本当に沢山の方に来店して頂いています。ご近所のおばあちゃんたちも、ここにカフェができたことをすごく喜んでくれて、毎日お店に来て下さる方もいるんですよ」

とSさん。人気のメニューは、無農薬・無化学肥料で作られた野菜を使ったランチプレートで、素材の良さはもちろん、美しい盛り付けにも細部まで心の込もった丁寧な仕事振りが感じられる。

 精進料理にヒントを得たという「いちじくの田楽」など、初めて食べるものも多かったが、どれもみな心がほっとするような優しい味がする。

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「食」が共通の話題だというAさん夫妻(撮影●遠藤昭彦)

「畑をやるぞ」と父に言われて

 
「やっぱり変わったものをご提供しないと、この店に来て頂く付加価値がないと思うんですね。以前、さつまいもの葉をお客様にお出ししたときは『こんなのも食べられるんだ』って、皆さん、すごく驚かれていました。無農薬・無化学肥料で作った野菜やお米がどれだけ美味しいか、その素晴らしさを多くの人に知ってもらいたいんです」

 店内には心地よいジャズピアノのBGMが流れ、時間がゆったり進んでいく。野菜や米作りについて話すときの、本当に楽しそうなSさんの表情が印象的だった。そんなSさんの明るい人柄や、Hさんの優しい雰囲気に惹かれて、このお店を訪れる人も多いのではと思った。

「農作業が好きになったのは、10年前に亡くなった父の影響が大きくて。小学2年生くらいのとき、畑仕事が大好きな父から急に『畑をやるぞ』と言われて、無理矢理手伝わされるようになったんです。そのときは嫌だなあと思っていたんですが、おかげで鍬を使えるようになったし、野菜作りの楽しさや、自然に触れる大切さなどに気が付くことができたんですね。あのときの経験が今に繋がっていると思うので、父にはすごく感謝しているんです」

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店内に置かれたウクライナ支援の募金箱(撮影●遠藤昭彦)

人生を変える米と出合う

 
 以前は石川県金沢市に住んでいたというAさん夫妻だが、なぜここ南砺市でカフェを開こうと考えたのだろうか。Sさんはこう話す。

「『暮しの手帖』(暮しの手帖社刊)で挿絵を描かれていた安野光雅さん*1の絵がすごく好きで、数年前に南砺市の美術館まで展覧会を観に来たんです。ちょうど麦秋を迎える時期で、小麦や大豆など、色んな作物が育っている光景がとても綺麗でしたね。その道すがら、道の駅に立ち寄り、地元で収穫したお米を食べたことが、この場所でお店を開く大きなきっかけになったんです。あまりの美味しさに、本当にびっくりしてしまって。お米を買いに南砺市に通っているうちに、田んぼを借りて、米作りを始めるようになりました」

 *1 島根県出身の画家、装幀家、絵本作家。2020年没

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お店で人気のランチ・プレート。ご飯は一粒一粒がきらきらと輝いている(撮影●遠藤昭彦)

 稲の苗は業者から買うのではなく、収穫した種もみから育てたものを毎年手植えしているという。カフェでは、収穫した米を羽釜炊きで提供しており、このご飯を目当てに店を訪れる人も多い。

「米作りを始めて、金沢からこちらに移り住むことを考え始めた頃、たまたま今の店の近くを車で通りかかって、近所の方に『ここら辺に空き家ってありますか』と尋ねたんです。そうしたら、この家を教えてくれて。その方が家主さんに連絡を取って下さり、その場でとんとん拍子に話がまとまって、ここを借りることができたんです。こんな漫画みたいな話、本当にあるんですね」

 すでに社会人となり、金沢市に住んでいるという長男も、田んぼの手伝いに来てくれるそうで、「一所懸命やってくれていて、本当に助かってます」と、Sさんは笑みを浮かべる。

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撮影●遠藤昭彦

ピンチはチャンス

 
 金沢市で生まれ育ったSさんは、亡くなった祖母から生長の家の教えを伝えられた。子どもの頃、早朝に祖母の部屋から、聖経*2を読誦する声が聞こえてきて、布団のなかでそれに耳を澄ましながら、安心感を覚えていたという。
 *2 生長の家のお経の総称

「おばあちゃんは私に、『あんたはなんでもできる神の子や』と、ありったけの賛美の言葉をかけてくれて、いつも私の一番の味方だったんです。当時の私は、あまり自分に自信が持てない子どもだったんですが、おばあちゃんが励まし続けてくれたことで心が前向きになり、私も人のことをほめるのが好きになりました」

 昔、食堂を営んでいたというSさんの祖母は、料理も得意だったという。

「もやしはひげ根を一つひとつ取るなど、手間暇を惜しまないおばあちゃんの料理は本当に美味しくて、今でも忘れられません。私が料理を好きになったのも、いつもそういう料理を食べていたおかげだと思うし、料理に対するおばあちゃんの姿勢から学んだことが、カフェを営む上で、すごく役に立っています」

 子どもの時から日記を書くことが好きだったSさんは、『日時計日記』*3も毎日欠かさず書いている。
 *3 太陽の輝く時刻を記録する日時計と同じように、毎日の明るい出来事や希望や感謝の言葉を書き留める日記帳。生長の家白鳩会総裁・谷口純子監修、生長の家刊

「カフェをオープンする数年前に、主人が失業してしまって。普通ならやばいと考えるかもしれないんですが、私はそのとき、長年の夢だったお店をやるなら今だって思ったんです。生長の家で『ピンチはチャンス』だと学んでいたし、谷口雅春先生*4の『今を生きよ』という言葉がいつも心にあったので、やるしかないという気持ちで、前を向いて進むことができました。『素晴らしいお店を開くことができました』と『日時計日記』にずっと書き続けていたことが、今その通りに実現していて、本当に驚きましたね」
 *4 生長の家創始者、昭和60年昇天

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米作りに取り組んでいる田んぼにて(撮影●遠藤昭彦)

人との絆を大切にして

 
「YUINOTE histoire」という店名はHさんが名付けたものだという。店をするならその名前にしたいと、以前からHさんが話していた。

「この辺りでは、茅葺き屋根を直す時などに、『結いの精神』といって、周りの人と一緒に助け合うんですよね。『YUINOTE』(結いの手)という言葉はそこからきていて、人との絆を大事にしていきたいという意味が込められているんです。『histoire』はフランス語で物語。主人はいい名前を付けてくれたと思いますね」

 今後はカフェだけではなく、空き部屋を利用して、農家民宿などにも取り組んでいけたら、とSさんは目を輝かせる。

「『食』は人間の根本であり、何を食べるかという選択が、健康だけでなく、自然環境にも影響を与えることになるんです。自然の恵みに溢れたこの場所から、無農薬・無化学肥料の農業の素晴らしさや、自然とともに生きていくことの大切さについて、様々な形で発信していきたいですね」

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特集解説
できるところから、「ノーミート、低炭素の食生活」を実践しよう

 
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生長の家では、この世界のあらゆる存在は神さまによって創造され、私たちはすべて一体であり、与え合い、助け合い、生かし合っているのが本来の姿であると考えます。

その信仰に基づき、毎日の食事においては、健康面だけでなく、地球環境やあらゆる生命にも配慮した食品を選択することをお勧めしています。地球温暖化防止のために肉食を控えるほか、CO2排出量を抑えた食品を選ぶなど、できるところから「ノーミート、低炭素の食生活」を実践していくことが大切です。
 * 人間だけでなく、動物、生物、鉱物やエネルギーも含めた自然界全体のこと

肉食の問題点

 
『図解でわかる 14歳から知る食べ物と人類の1万年史』(インフォビジュアル研究所著、太田出版刊)によると、食品の中でも、特に肉類の生産過程における水の消費量はトップで、飼育だけでなく、えさの穀物の生産にも大量の水が必要であるといいます。

その他、牛のゲップによって、温室効果ガスの一つであるメタンが排出されてしまうことも問題視されており、肉を食べることが水不足や温暖化を助長する原因になっていることが分かります。

また、肉を食べるということは、同じ生命あるものを殺生するということです。コロナによるペットブームを耳にしますが、ペットとして愛玩する犬や猫と同じように、家畜の牛や豚にも感情があり、両者に本来違いはないはずです。

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人間は自然の一部

 
私は9年前に、自然豊かな山梨県の八ヶ岳南麓に移り住み、2畳分ほどのわずかなスペースですが、畑を借り、農薬を使わない家庭菜園を始めました。家庭菜園は究極の地産地消・旬産旬消の実践です。

海外からの輸入品や、暖房に化石燃料を使うハウス栽培の食材より、輸送や生産段階でのCO2排出量が少なく、とってもエコなのです。さらに、無農薬なので体に安心安全な上、旬の食材は新鮮で栄養価も高く、味が濃くて美味しい!

そのように自然と寄り添い、季節と自然界の循環を感じることで、人間は自然の一部であり、自然の恵みによって生かされているとの実感が増し、地球上のすべてのものが愛おしく感じられるようになりました。

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明るい未来のために

 
家庭菜園を続けるなかで、自然と口に入るものに意識が向くようにもなり、食品を購入する際は、可能な範囲で、オーガニックな国産食材をチョイスするようにしています。休日には、お肉を使わず、有機野菜などを使ったメニューのある地元のレストランやカフェを開拓し、お店のオーナーや生産者さんたちとも仲良くなりました。地球環境に配慮する仲間が増えることに心強さを感じています。

谷口純子・生長の家白鳩会総裁は、『この星で生きる』(生長の家刊)のなかで次のように説かれています。

「人間は他の動植物に支えられて命を保っているのである。そのことを常に意識していれば、人間が自然の一部であり、他の動物を大量に殺したり自然破壊をすることは、自分の命を破壊することに繋がるということも忘れないだろう」
(229ページ)

地球上の生命の繋がりに思いを寄せ、食生活を可能なところから見直してみませんか? それは健康のためだけではなく、自然への負荷を減らし、地球環境の保全にも繋がります。お互いを思いやり、明るい未来のために、共に行動していきましょう。

We can do it!! You can do it!!

源 明子(みなもと・あきこ)
生長の家本部講師補
富山県生まれ。SNIオーガニック菜園部部長。電動アシスト自転車に「源(ゲン)チャリ」と名付け、ジテツー(自転車通勤)などで愛用中。ウクライナへの支援活動にも精力的に取り組んでいる。