手づくりを楽しみながら、心豊かで、自然と調和した生き方をしよう

 皆さんは、何かを手づくりすることは好きですか? もしかしたら、少しハードルが高いと感じるかもしれません。私も以前はそう思っていましたが、手づくりを楽しんでいるうちに、好きになりました。今回の特集解説では、私自身の手づくりの体験を交えながら、手づくりの楽しさについてお伝えします。

▪️世界に一つだけのプレゼント

 私は最初、手づくりして何かを作ることに苦手意識を持っていました。他人と自分の作品を比べると見劣りするように感じ、手先も器用ではないため、作品を作る時間も人より長くかかりました。そのため、「手づくりは自分には合っていない」と勝手に決めつけていたのです。

 そんな私が手づくりを好きになった理由の一つは、自分で作った作品には、他人と比較できない尊さがあると感じたからです。

 きっかけは、妻から手編みの手帳カバーをプレゼントしてもらったことでした。この手帳カバーは、インターネットでいくら探しても見つからない、世界にたった一つだけのオリジナルカバーです。すぐに愛着が湧き、プレゼントしてもらってから3年が経った今も大切に使っています。

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 妻に触発され、私も手編みでブックカバー作りに挑戦しました。はじめは、なかなか上手くいきませんでしたが、慣れてくるとスムーズに手が動くようになり、いつの間にか手づくりを楽しんでいる自分に気がついたのです。

 時間をかけて作った作品は、決して格好の良いものではありませんでしたが、それでも自分にとってはかけがえのないものとなりました。

 編み物を中心に手づくりするようになった私は、特に日用品を手づくりして使うことが好きになりました。前述の手帳カバーなどもそうですが、普段使いできることに喜びを感じたからです。

 手づくりを楽しむ生活を送っていると、物を大切にする気持ちが自分のなかで育まれていることを感じるとともに、作品を手にして、ふと「当たり前の日常がありがたいなぁ」と思う時があります。そのような瞬間を大切にしながら、ていねいに生きることが、心の豊かさに繋がるのだと考えています。

▪️手づくりを通して自然と共に生きる

 また、現代では大量生産・大量消費が当たり前となっていますが、手づくりをして、物を大切に使いながら生活することで、資源の浪費を抑制し、地球温暖化や気候変動の問題解決に寄与することもできます。

 SNIクラフト倶楽部(*)が編集した『手づくりが世界を救う』の中で、私と同じように、初めは手づくりに苦手意識を持っていたという女性の方が、家族のために日用品を手づくりされたというエピソードが紹介されています。

『手作りが世界を救う』表紙画像

 その方は夫の小物入れや子どもの保育園グッズを作っているうちに苦手意識がなくなり、環境に負荷をかけない素材を選んで手づくりすることが楽しくなったそうです。そうした生活が物を大切にする心を育み、心豊かな生活に繋がったということで、私と同じように感じている方がいることを知り、とても嬉しくなりました。

 SNIクラフト倶楽部には、手づくりを通して、自然と調和した、心豊かな生活を送る仲間がたくさんいます。私はこれからも皆さんと一緒に手づくりを楽しみ、自然と調和した生き方を送っていきたいと考えています。あなたも一緒に手づくりを楽しんでみませんか? 心から歓迎いたします。

* SNIクラフト俱楽部は、生長の家が行っているPBS(プロジェクト型組織)の一つ

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中根敏也
生長の家本部講師補
愛知県豊田市出身。2022年からSNIクラフト倶楽部部長。持病のてんかんをきっかけに教えに触れる。楽しみは編み物などで日用品を作って使うこと。

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『“新しい文明“を築くために3 手づくりが世界を救う』
宗教法人「生長の家」(SNIクラフト倶楽部)編
日本教文社刊

 自然素材を使い、手づくりに取り組むことで、本当の意味で心豊かな生活を送ることができるとともに、環境保護や世界平和の実現にも貢献できます。本書には、手づくりを楽しんでいる方々の実体験や作品などが紹介されており、生長の家が勧める「自然重視、低炭素の表現活動」について、詳しく知ることができます。

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特集ルポ|木のぬくもりを感じて

 昔ながらの町並みが残る佐賀県有田町は、日本の伝統工芸の一つである磁器が日本で初めて焼かれたことで知られ、有田焼をはじめ多くの窯元が工房を構える。

 食器や美術工芸品を中心にしたものづくりを続けるこの町で生まれ育った秋月雄太さんに、暮らしの中で使うものを手づくりし始めた理由を聞いた。

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秋月雄太(あきづき・ゆうた)さん
佐賀県有田町・会社員・36歳
取材●長谷部匡彦(本誌) 撮影●髙木あゆみ

 有田焼の工房が軒を連ね、飾られた陶芸品が道行く人々の目を楽しませる通りから一歩裏路地に入った場所に、秋月雄太さんの自宅はある。秋月さんは昨年(2021)3月に薪棚を作った。

「薪は自宅近くにある山の倒木などから作り、風呂のお湯を沸かすのに利用しています。燃料代の節約になりますし、少しでも自然環境に優しい生活をしたいと思ったんです。薪をくべていると、生活に必要なものは自然から与えられていることを実感しますね」

 小学生の時、自宅から3キロ離れたダムまでゴミ拾いを行う地区の行事に毎月参加していたと話し、それが自然を大切にする心を育むきっかけになったと振り返る。

「最初は、ただ友達と会えるのが楽しみだったんです。でも、道路沿いに捨てられたタバコの吸い殻や弁当殻などのたくさんのゴミを見て、子ども心にこのまま放置していたら自然が汚れてしまうと感じていました」

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生長の家の教えで心が変わる

 秋月さんは24歳の時に、指定難病である潰瘍性大腸炎を発症し、生長の家の教えを学んでいた母親に勧められて、生長の家の本を読み始めた。

「入院したことで時間を持て余し、『生命の實相』(生長の家創始者・谷口雅春著、全40巻。日本教文社刊)を読み始めたら、『肉体は心の影、本来病なし』という一文にとても惹きつけられました。『類は友を招ぶ』という心の法則についても学び、マイナスの感情を抱いていると、マイナスなことを引き寄せてしまうことを知りました」

 当時、警備員の仕事をしていたが、契約外の工事現場の手伝いをするように依頼先から求められたことに憤りを感じて相手を責めていた。「天地一切のものと和解せよ」「神に感謝しても父母に感謝し得ない者は神の心にかなわぬ」という生長の家の教えを学び、周囲の人と調和する気持ちが欠けていたことに気づいた。

 

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宮内庁御用達としても有名な、有田焼の老舗である香蘭社の前で

「学生時代は、昔気質の頑固な祖父と、父が些細なことで喧嘩する険悪な雰囲気が嫌だったんです。食事で家族が集まるときは、自分だけ別の部屋で食べていたこともありました」

 仕事の依頼先や、祖父と父親に対して不満を抱えていた自分を反省し、感謝の言葉を心のなかで唱えるようになった。

 その後、通院と入退院を繰り返しながら、郵便局への転職を経て、徐々に体調は落ち着きを取り戻した。

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自宅の縁側にて。「これから本棚を作ろうと思っています。木材に触れていると、なにか安心するものがあります」


祖父母から引き継ぐ家具

 生長の家の教えに触れ、感謝の気持ちを大切にするようになると、祖父が物を大事にしていた姿を思い出した。

「物が壊れたりすると、祖父はよく自分の手で修理していたんです。柱にある壁掛け時計が止まってしまうたびに祖父はいつも直して大事に使っていました。その壁掛け時計が、今でも時刻を知らせてくれていることが感慨深いです。また、父は中古住宅を購入したのに、祖父が建てた家に今も住み続けていているんですよ。きっと祖父との思い出がつまった家を大切にしているんだと思います」

 祖父母の代から使い続けている家具を、自分でも大切にしているうちに、良い材料で作られているからこそ長持ちしていることに気がついた。

「自分で購入した合板製の本棚は、湿気で腐ってしまい、カビが生えてきてしまったんです。それで、しっかりとした良質の木材を使って自分の手で作ることにしました」

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左/「2日間で合計8台の本棚を作りました。それを積み重ねて使っています」
右/「スプーンの形に削り出したあとは、滑らかになるまでやすりをかけました。触れていると気持ちが良いですよね」(写真提供:秋月雄太さん)

 板を購入して作った本棚は、空気の流れを良くするために背板の上下や、本棚と床の間に空間をあけるなどの湿気対策を施した。

「どんな本棚を作ろうかと想像している時間が、楽しかったですね。市販の本棚を買うよりも板の代金の方が高くなりましたけれども、手づくりした本棚は愛着が湧きましたし、長く使えるような工夫もできたので、とても満足しています」

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自宅の庭にて。「家庭菜園の野菜を収穫するときは、カレンダーや新聞紙から作ったバッグを使っています」


身体に優しいものを使いたい

 そのほかにも、自宅敷地内で剪定した金木犀の枝からスプーンを作製するなど、暮らしの中で使うものを手づくりするようになった理由を、秋月さんはこう話す。

「元保健師として乳幼児に関わる仕事をしていた母から聞いた話ですが、今の子どもたちは昔の子どもたちと比べて、なにかしらの病気等の問題を抱えている子が増えているというんです。シャンプー等の日用品の多くが石油由来の合成化学物質が使用され、それらが影響を及ぼしているようです」

 また、紫外線などにより劣化したプラスチックから生じたマイクロプラスチックやナノプラスチックが体内に入り込むことで、人体に悪影響を与える危険性があることも知り、考えさせられたという。

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「竹から作ったプランターにミントを植えました」(写真提供:秋月雄太さん)

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切り出した木の幹から作った有田焼の台座

「安価で加工しやすいプラスチックを多用する生活は間違っていると、身体を通して警告を発しているんだと思います。昔の人は自然から得られるもので生活を調えていたから、身体にも環境にも良い生活を送っていました。直接肌で触れるものに関しては、できるところから自然素材のものに変えていくことが大切だと感じています。私は木材に直接触れることで安心感が得られました。楽しみながら手づくりに取り組むことで、本当に大切なことがきっと見えてくるのではないでしょうか」

 終始穏やかな秋月さんの笑顔が心に残った。