小学生の頃から周りの空気を読み、自分の本当の気持ちを抑えこんできた。
専門学校を卒業後、社会人として働き始めるなかで、徐々に自信がもてるようになっていった矢先、新型コロナウイルスの感染拡大の影響で勤めていたアパレル会社が倒産。
母親に勧められ、生長の家の讃歌(*1)を読誦したことが、自身を見つめ直すきっかけとなった。
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長野県安曇野市で育ったK.S.さんは、自宅からも雄大な北アルプスを望むことができ、幼い頃から自然が好きだったという。今年(2022)4月下旬、待ち合わせ場所の国営アルプスあづみの公園(安曇野市)を訪れると、豊かな森林のなかを小川が流れ、池の周囲では鳥たちが羽を休めていた。
「あらゆる動植物は、命そのままに生命の本質を生きていて、私はそこからいつも元気をもらっています。以前の私は、世間一般の感覚で、『こうでなければいけない』という価値観を作ってしまい、それに左右されていました。でもそんな考え方は、自分の本心ではないと思うようになって、いまは『嬉しい』とか『楽しい』と感じる自分の正直な感覚を大切にするようにしています」
幼少期のトラウマ
Kさんにとって辛い思い出がある。それは小2の頃、ふとしたことがきっかけで友人を怒らせてしまい、無視されるようになってしまったことだ。
「友達から避けられてしまったことが、本当に辛くて悲しかったです。次第に周りの空気を読むようになり、素の自分を出さなくなっていきました」
物心がつく頃から、生長の家の信徒である両親に連れられて、生命学園(*2)や小学生練成会(*3)に参加していた。その時だけは、心が解放されて安心していたと振り返る。
「講師がいつも温かく迎えてくれて、私のことを褒めてくれたのが嬉しかったですね。無条件で『人は誰しも素晴らしい神の子である』と認めてくれる雰囲気が好きで、心に何も縛りを感じることがなかったです」
しかし、学校では友達に素直に本心を明かすことができず、敬語で接していると、一部の同級生からは距離を置かれてしまうことがあった。
「感情を素直に表現すると、嫌われてしまうのではという恐怖心が付きまとっていました。だから自分の感情を抑え、人の意見を優先させたほうが何事もなく、平穏に暮らせるんじゃないかと考えていました」
その後、中学、高校でも周囲に合わせる学校生活を送っていたが、表面を取り繕うことに気疲れを感じるようになった。
見方を変える
平成20年に高校卒業後、長野県内にあるパティシエの専門学校に進学し、翌年の10月に国家資格である製菓衛生師の資格を取得した。しかし、自分を変えたいという思いを抱えていたので、パティシエの道へ進むのではなく、様々な人と接するためにクリーニング店の受付として働きはじめた。
「接客ではお客様の気持ちを汲み取って、要望に合わせたアドバイスをすることで、お客様に喜んでもらえて、やりがいを感じました。周りの空気を読んでしまう性格を自分では短所と思っていましたが、それを接客に生かせることができ、とても意外でした」
仕事にいそしむ一方で、人に対する恐怖心がなくなった訳ではなかった。その事を上司に相談すると、「見方を変えればいい」と助言され、「接客を楽しもう」と意識することで気持ちが軽くなった。徐々に他人への恐怖心が薄らいでいき、平成26年の9月に、以前から興味があったアパレル会社の契約社員となり、デパートの紳士服売り場に勤めるようになった。
「クリーニング店で男性の服を扱っている内に、男性もののジャケットやシャツなどのシルエットに興味を持つようになったんです。紳士服売り場は上下関係に厳しい面もありましたが、接客にやり甲斐を感じるようになっていたので、苦にはなりませんでした。『あの人は苦手』といったマイナスの感情に捉われることなく、生長の家で説かれている、人や物事の良い面をみる『日時計主義』(*4)の考え方で物事に取り組むことが大切なんだと思いました」
しかし、令和2年に始まった新型コロナウイルス感染拡大による経済活動自粛の影響を受け、勤め先のアパレル会社が倒産し、同年8月に解雇されてしまった。
転機の訪れ
勤め先の倒産という憂き目にあってしまったが、仕事から離れたことで却って心に余裕が生まれ、本心を見つめ直す貴重な機会になった。
そんな中、同年9月6日から7日にかけて、最大瞬間風速80メートル、910ヘクトパスカルという過去最強クラスと言われた「令和2年台風第10号」が九州に接近していた。
谷口雅宣・生長の家総裁は、国内の生長の家の信徒に向け西日本地域の無事を祈り、精神的支援をするため、「讃歌リレー読誦」を呼びかけた。母親に誘われて、Kさんも一緒に讃歌を読誦した。
「『大自然讃歌』(生長の家総裁・谷口雅宣著、生長の家刊)に収録されている『自然と人間の大調和を観ずる祈り(*5)』のなかにある、『人間よもっと謙虚であれ』『自然の一部であることを自覚せよ』『自然と一体の自己を回復せよ』という箇所を初めて読んだ時に、人間の利益だけを追求し、自然を壊してしまう今までの生き方が間違っていたんだと、ハッとさせられました」
「讃歌リレー読誦」を終え、改めて聖経(*6)や讃歌を注意深く読み始めた。
「人間関係で悩んでいた頃は、自己啓発書を読んだりしていましたが、胸のつかえがおりることはなかったんです。聖経を読み直してみると、人間の本質は物質ではなく、肉体ではなく、霊であるなどと書かれている文章を通して、人の根元に触れた気がして、胸がスッとするのを感じました」
「人間は神の子である」と説く、生長の家の教えに間違いがないという確信が生まれ、生長の家の講話ビデオの視聴を始め、11月からは生長の家宇治別格本山(*7)がオンラインで行っていた早朝行事にも参加するようになった。また、生長の家の教えをもっと真剣に学びたいと思い、令和3年の6月から9月までの間、宇治別格本山の研修生(*8)となった。
父母への感謝
研修生の間、早朝行事で読誦していた『大調和の神示(*9)』の一節にある「汝の父母に感謝せよ」という教えが、心の奥底に沈んでいた不安を取り除いてくれたと、Kさんは話す。
「『自分は両親に感謝している』と思っていたのですが、じつは両親からの助言を、私を縛りつけるものと感じていて、心の片隅に両親から愛されていないという不安があったんです。そんな時に生長の家の講師から、父母への感謝の大切さを説いた話を聴き、『両親から愛されている。祝福されている。喜ばれている』と、何度も唱えるよう勧められました。この言葉を何度も繰り返すうちに、少しずつ心に染みてきて、それまで抱えてきた不安が、安心感へと変わっていったんです」
両親からの助言は、決して心を縛るものではなく、両親を通して神様の愛が表現されているものであり、自分のためを思っての言葉であることに気がついた。
今年(2022)2月から生長の家国際本部“森の中のオフィス”に勤務するようになったKさんは、最後に両親に対する思いが自身に与えた影響について話してくれた。
「両親から愛されていないと思っている間は、失敗や間違いをすると人から嫌われてしまうのではないかという恐怖心を抱えていました。でも、自分は両親から愛されていたと気がつけたことで、心が安らかになり、他人に対しても気をもまなくなりました。両親に対して感謝の思いを持つことは、自分自身の素晴らしさを認め、本当の幸せを得るためにとても大切だと思います」
*1 生長の家総裁・谷口雅宣著『観世音菩薩讃歌』と『大自然讃歌』のこと
*2 幼児や小学児童を対象にした生長の家の学びの場
*3 合宿して教えを学び、実践するつどい
*4 日時計が太陽の輝く時刻を記録するように、人生において光明面を見る生き方
*5 生長の家総裁・谷口雅宣著。東日本大震災を受け、2011年3月17日に発表された
*6 生長の家のお経の総称
*7 京都府宇治市にある生長の家の施設。宝蔵神社や練成道場などがある
*8 宿泊しながら、生長の家の教えを研鑽する
*9 生長の家創始者・谷口雅春先生に下された言葉
K.S.さん
山梨県北杜市・32歳・団体職員
取材●長谷部匡彦(本誌) 撮影●永谷正樹