「待っててくれて、ありがとう」
「以前は正直言って、スーパーで豆腐などを買うとき、棚の奥の方にある賞味期限の新しいものを取ってしまうことがありました。でも、何年か前から食品ロスを減らそうと意識するようになり、賞味期限が近づいている手前のものから取る、“手前取り”を心がけるようになったんです」
そう話すT.N.さんは、岡山県で美容院を営んでいる。自宅兼店舗の屋根の上には太陽光パネルを載せ、ヒートポンプ給湯機を導入し、電気自動車も愛用するほどエコ生活に積極的だ。それでも仕事が忙しく、買い物に行く回数が限られるため、以前はつい棚の奥の方の賞味期限の新しい商品を手に取ることがあった。
「私は生長の家の信徒だった母の影響で、子どもの頃から、天地一切のものに感謝するという教えに触れて、食べ物も粗末にせず感謝していただくことを学んできました。これではいけないと思い直し、スーパーで手前取りをしながら、『えらいぞ!』と小声でつぶやいて自分を褒めるように心がけたんです(笑)」
それが習慣になると、できるだけ賞味期限の古いものを選びながら、「待っててくれて、ありがとう」とか、「よしよし、よくわが家に来てくれたね」などと、商品に言葉をかけるようになった。
「先日も賞味期限が次の日のものを買って、『明日が賞味期限のものがうちに来た!』と『日時計日記』(生長の家白鳩会総裁・谷口純子監修、生長の家刊)に書いたほどです(笑)」
と屈託のない笑顔で話す。
甘エビせんべいと義母
Tさんは、毎日の調理でも地球環境に気を配っている。得意料理は肉を使わないノーミート餃子で、国産米粉の皮を使い、野菜のみの具を包んで焼く。肉を入れなくても十分においしい餃子ができて、家族にも好評だという。
昨年(2021)5月には、SNIオーガニック菜園部(*1)のフェイスブックグループに、甘エビの殻とご飯で作った「エビせんべい」の記事を投稿した。料理に使った甘エビの殻を捨てないようにと工夫したもので、オーガニック菜園部のメンバーにも大好評だった。
「あの時は、鳥取県産の甘エビが手に入って、お刺身でいただき、残った殻で出汁を取りましたが、その殻が捨てるにはもったいないくらいきれいだったので、何か使い途がないかなあと料理雑誌で調べたところ、おせんべいにできると分かって、やってみたんです」
フライパンで乾煎りし、フードプロセッサーにかけて粉にして、それを温かいご飯と少量の塩を混ぜて麺棒で薄く伸ばす。それを電子レンジで温めると、エビのきれいな赤い色がついたおせんべいが出来上がった。
「これを作ったのはちょうど母の日でしたので、まず霊界の義母にお供えしてから、おいしくいただきました」
Tさんは結婚当初、重度の更年期障害で躁うつを繰り返す義母のきつい言葉に耐えられず、1年後に義父母と別居した。その後も義母とは不調和の状態が続いたが、婦人科系の病を患い、入院した時に親身に世話をしてくれる医師や看護師の優しさに触れ、身内の義母に対して優しい言葉一つかけなかった自分を反省した。
入院中に教えを学び直そうと生長の家の本を読み、聖経(*2)を懸命に写経した。退院後、再び同居生活が始まる際に義母にこれまでのことを詫びると、義母は優しく迎え入れてくれ、次第に和解することができたという。
「義母は亡くなる前に、『あなたがうちの嫁でよかった』と最高の褒め言葉を残してくれて、感動しました。生長の家では“環境は心の影”と言いますが、教えを行じるうちに義母も素晴らしい神の子だという見方ができるようになり、調和するようになったのだと思います。生長の家の教えは本物だと確信しました」
遊び心をプラスして
Tさんは家族の弁当のおかずを作る際は、「食べ切れる量」を考えて材料の入手から気をつけている。
「息子が高校生の頃は、陸上部に所属していて食欲も旺盛でしたから、弁当も2つ持って通うほどで、食材の量も大変なものでした(笑)。その息子も今は離れて暮らしていて、今春大学を卒業しますので、わが家ではたくさんの量を作っても無駄になります。今は魚と野菜料理をメインにし、捨てる食材が出ないように工夫しています」
Tさんは、家庭から出た生ゴミも捨てず、大きな旅行バッグを使ったコンポストに溜めて、家庭菜園の肥料にしている。
コンポストで有機肥料を作る際には、悪臭が出ることを心配する人が多いが、よくかき混ぜて空気に触れさせることで臭いが収まっていくという。また、虫の発生を抑えるためにコンポストを密封することが肝要だが、バッグは口をしっかり閉じられるため虫も発生しにくい。こうして出来た有機肥料を家庭菜園に使っている。
「以前は段ボールコンポストにしていましたが、置き場所に苦労し、悪臭と虫の発生も問題でした。旅行バッグを使ったコンポストにしてからは、とても生ゴミが入っているとは思えないほどおしゃれな感じで快適です」
エコ生活を続ける秘訣について、Tさんは「小さいことの積み重ねを、楽しみながら続けることをお勧めします。大切なのは遊び心をプラスすることです」と言う。
食料品を買う際の「手前取り」で、小さく声をかけながら「よしよし、わが家にようこそ」と歓迎し、『日時計日記』にその喜びを記録するというのも遊び心の典型だろう。Tさんの持ち前の明るさが、そのまま現れているような思いがした。
*1 生長の家のプロジェクト型組織の一つ。ノーミート、低炭素の食生活をめざしている
*2 生長の家のお経の総称