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家庭菜園で今晩の料理に使う白菜を収穫

興梠美絵(こうろき・みえ)さん(47歳)
山梨県北杜市
取材/渡辺哲矢(本誌) 撮影/堀 隆弘

肉を使わないノーミート料理

 
 山梨県北杜市にある興梠美絵さんの自宅を夕方訪ねると、6歳の三男と一緒に台所で夕食の準備中だった。この日のメニューは、白菜と人参の和え物、レタスのサラダ、ちぢみほうれん草とゆで卵のチーズ焼き、厚揚げの南蛮タルタル仕上げ、豆腐の唐揚げ、きんぴらごぼう、デザートにアップルパイとウクライナのキャロットケーキであるモルコヴニツェと盛り沢山だ。

 興梠家の家族は、夫の康徳さん(50歳)、長男(16歳)、長女(15歳)、二男(9歳)、そして三男の6人で、平成29年8月に長崎県から現在の地に移住した。美絵さんは、康徳さんが勤務する生長の家国際本部“森の中のオフィス”でパート職員として働き、午後3時に退勤後、保育園に慶多君を迎えに行き、5時頃から夕食の準備を始める。

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手際よく野菜をカットしていく

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甘辛く焼き、タルタルソースを掛ける厚揚げの南蛮タルタル仕上げ

 食事の一番のポイントは、肉を使わないノーミート料理であること。美絵さんは母親から「人間は神の子である」と説く生長の家の教えを伝えられ、すべての動物、植物も神の生命が宿る尊い存在であることや、地球環境に配慮した食の大切さも耳にしてきた。生長の家で環境問題について学ぶうちに、肉食が引き起こす深刻な問題について知った。

 大量の穀物や水が、先進国で食用となる牛や豚の飼育のために消費され、発展途上国の人たちの食料が不足し、飢餓に苦しむ人を増やしている現実がある。また、家畜を飼育するための大規模な牧草地や飼料用穀物の畑の開発による森林破壊、さらには家畜のげっぷに含まれるメタンガスには二酸化炭素よりも高い温室効果があるなど、肉食が地球温暖化の一因になっている。

「多くの子どもたちが飢餓で苦しみ、亡くなる原因に肉食があることを知った時、とてもショックを受けました。そんな子どもたちを少しでも減らしたい、未来の子どもたちに美しい地球を残してあげたいという思いから、肉食をやめるようになりました。小さなことでも、日々の中でできることを少しずつ積み重ねていけば、より良い未来につながると信じています」

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こんがり揚がる豆腐の唐揚げ

 肉食をやめ、ノーミート料理を始めてからは、肉の代わりに豆腐をよく使うようになった。豆腐は一度凍らせると、組織がスポンジ状になって食感が固くなり、肉の代用として使いやすくなる。冷凍豆腐はボリューム感もありタンパク質も豊富で、興梠家の子どもたちも大満足だという。

「ハンバーグや唐揚げなど、本来肉を使う料理をいかに肉なしでおいしく作るかを考えて、創意工夫するのがとても楽しいです。努力の甲斐あって、子どもたちからは肉が食べたいと言われたことはなく、ノーミート料理に満足してくれているようです」

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完成したノーミートの夕食

地球と家族を思いやる選択

 
 美絵さんは、食品の輸送や生産により発生する二酸化炭素を少しでも減らしたいという思いから、地元産の旬の有機野菜や食材を意識して選んでいる。海外産の食品は輸送距離が長いほど輸送する船や飛行機から多くの二酸化炭素が排出され、季節外れの野菜や果物の、暖房機を使った温室栽培には、一定の温度を保つために大量の石油を必要とすることを知ったからだ。

「食材を買う時は地球と家族、両方に優しい選択を心がけています。地元の直売所で買う旬の野菜は、無農薬で栄養価も高く味も良いので、子どもたちにも好評です。家庭菜園にも取り組んでいて、今日の夕食で使っている白菜はわが家の畑で採れた物なんです。家族には、できるだけ体に良い自然の食材を食べてほしいと思っています」

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ゆで卵の殻むきを進んで手伝う慶多君。「子どもたちが料理を手伝ってくれるおかげで、毎日とても助かってます」

母の思い出

 
 美絵さんの両親は、美絵さんが小学校に上がる前に離婚し、母親は働きながら美絵さんと妹を育ててくれた。母親は料理を作る余裕がなく、家族3人で食卓を囲むことは少なかったが、忙しい合間を縫って母親が時折作ってくれる料理を親子3人で食べる時が一番幸せだったという。

「ちゃんと毎日ご飯を作ってくれるお母さんに憧れがあって、自分が結婚して子どもが生まれたら、毎日手料理を食べさせてあげたいと昔から思っていました。それが今、家族6人分のご飯作りを頑張れる理由かもしれません。かつては母に対して不満を感じることもありましたが、自分が結婚して子育てを経験すると、当時の母の苦労を理解できるようになりました。今は女手一つで私と妹を育ててくれた母に、本当に感謝しています」

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家族揃って食卓を囲む。「家族が『おいしい!』と笑顔で喜んでくれるおかげで、毎日ご飯作りを頑張れています」

 家庭で環境問題に熱心に取り組むのは、子どもたちに地球環境の大切さを伝えていきたいからと美絵さんは話す。

「子どもたちには、地球環境を思いやる選択ができる大人になってほしいという思いがあります。地球で起きている様々な環境問題を知らないまま、自分本位に生きる人生は送ってほしくなくて。親である私たちが行動している姿を見せれば、子どもたちにも少しずつ伝わると信じて、日々頑張っています」

 旬の食材のエネルギーと愛情のこもった食事で、きっと子どもたちは思いやりにあふれた大人に成長していくに違いない。