北舘節子(きただて・せつこ)さん(75歳)
秋田県鹿角市
取材/原口真吾(本誌) 撮影/堀 隆弘
パッチワークで部屋を飾る
「ここは娘が小学校の頃に使っていたハンカチでしょ。ここは夫が生前着ていたシャツね。懐かしいわ」
北舘節子さんが何年もかけて作ったという、二人掛けソファを覆うほどの大きなパッチワークキルトの作品。そのピース一つひとつを指さしながら、家族の思い出を話してくれた。
取材に訪れたのは昨年(令和4年)12月。案内されたリビングの壁には、北舘さんが夜空やクリスマスをイメージして製作したパッチワーク作品が飾られていて、季節に合わせて替えているという。他にも、ソファのカバー、テーブルクロス、床のラグ、それからイスのクッションにいたるまですべてお手製で、自分の色に染められた室内を見渡しながら、「優越感!」と、いたずらっぽく笑う。
昨年開催された第41回生光展(生長の家主催)では、世界平和への願いを込めたパッチワーク作品を出品した。「絆」と名づけられた、縦横約2メートルのこの大型作品は、手工芸品部門で優秀賞に輝いた。端切れや古着を使った長方形の細かいピースを組み合わせて正方形にしたものと、知人から譲り受けた紺の着物を正方形に裁断した生地を、一つ置きに敷き詰め、さらに縫い目のきわにする落としキルトを根気よく手で縫い上げ、色が鮮やかに浮かび上がる工夫がされている。
色も柄もバラバラなピースを寄せ集めているのに、全体が調和しているように感じられるのは、隣り合うピースに互いが引き立つ色合いのものを選び、繋いでいくからだという。
「ロシアのウクライナ侵攻によって、世界は不安定になってしまいました。でも、パッチワークのピースのように、一人ひとりが手を取り合って繋がっていけば、『世界平和』という幸せのパターンができてくるはずだと、作品に思いを込めました」
娘の不登校を機に教えに触れる
北舘さんは、高校3年生の一人娘が不登校になり悩んでいた時、友人から練成会*への参加を勧められて生長の家の教えに触れた。その時、講師から「親の心が変わることが必要ですよ」と諭され、思い当たることがあった。それは娘の高校受験に際し、自宅から遠いことを理由に志望校を変えさせたことだった。
* 合宿形式で教えを学び、実践するつどい
「娘の心を親の都合で縛りつけてしまっていたことに気がついて、長女に謝りました。あなたの好きにしていいよと話すと、娘は高校を退学し、レストランでアルバイトを始めました。そこから飲食業に興味を持ち、今は結婚して、『秋田の郷土料理をみんなに知ってもらいたい』と、キッチンカーで静岡の伊豆半島を回っています。子どもには素晴らしい神性が宿っていて、親が縛らなければ、子どもは生まれ持った天分のままに育っていくんだと学びました」
平成17年に夫が肝硬変で急逝した時も、「人間は神の子であり、永遠生き通しの生命」と説く生長の家の教えが支えてくれた。
「私の原点は練成会ですから、練成会に行っていれば絶対に大丈夫だと、その頃は毎月参加していました。真理の言葉と地元の信徒仲間に支えられて、あまり気落ちすることなく、夫の死を受け入れることができました」
心満たされる手仕事の時間
北舘さんは編み物の教室を開いていた母親の影響で、小学生の頃から見よう見まねでマフラーなどを編むようになった。高校では家庭クラブに入部して刺繍に没頭し、27歳で結婚して専業主婦になると、空いた時間でセーター編みの内職を始めた。子育てが始まったことを機に内職はやめたが、知人や友人から誘われて、今度は地域の様々なワークショップに参加した。
「母は私のセーターやコート、さらには結婚式のレース編みのウエディングドレスまで、着るものは何でも編んでくれる人でした。私も縫い物に棒編み、文化刺繍、粘土の造花作りなど、興味の赴くまま手作りを楽しんできましたが、きっと血筋なんだと思います。でも、困ったことに作品の置き場がなくなってきてしまって(笑)。今はパッチワーク一本です」
毎年5月から11月の終わりまでは、花農家や果樹園の手伝いで忙しく、手仕事は冬の楽しみだという。
時計の針の音だけが静かに響く暖かい室内で、自分の作品に囲まれながら手仕事に没頭するのは、何よりも心安らぐ満ち足りた時間。長い作業で固まった体を伸ばしながら、窓の外の空を見上げると、何とも言えない充実感がこみ上げてくるという。
数センチの三角や四角のパッチワークのピースを、何年もかけてコツコツと作り溜めていき、さらにピースをつなぎ合わせて、花や星などの形をしたパーツを作っていく。パーツの数が揃い、作品のイメージができたら、2カ月ほどかけて手縫いで仕上げる。
「思う通りに縫えないもどかしさがあって、昔からミシンはあまり好きじゃないんです」と北舘さんは小首を傾げた。
「手を動かして、無心にコツコツやるのが好きですね。ひたすら切って、並べて、あれこれ考えを巡らせているうちに、だんだん完成したイメージが浮かんできます。つなぎ合わせて作品が大きくなってくると達成感も大きくなって、夜なべしてでも仕上げたいくらい夢中になってしまうんです」
材料は家族の衣類や、友人からもらった生地で、一生かかっても使い切れないくらいの量があるという。生長の家で「すべての物は神のいのちの現れ」と学び、自然と今、手元にある生地や古着を生かして作品を作ろうと思うようになった。
「小さな端切れでも生かしたいと思うと、パーツがどんどん細かくなっていきますが、より調和した世界を作品に落とし込めるように思います。小さなピースが集まって大きなパーツになり、それがさらに集まって一つの作品になっていく様子は、果樹を育てるのにも似ています。私にとって手仕事は、収穫のよろこびなんです」
ほほ笑みながら糸を通していく北舘さんの横顔が、印象に残った。