中本晃太郎さんと沙也加さんが交際を始めて約1年後のある日、沙也加さんが脳出血を起こして緊急手術を受けた。3日後に意識が戻ったときには、思うように会話ができない状態で、沙也加さんは晃太郎さんに迷惑をかけることになると思い、別れることを覚悟していた。そんななか、晃太郎さんは沙也加さんとの結婚を決意した。
中本晃太郎(なかもと・こうたろう)さん
30歳・大阪市旭区
取材●長谷部匡彦(本誌)
二人の出会い
中本晃太郎さんが、沙也加さんと初めて出会ったのは、2017年の4月。友人に誘われて遊びにいったグループのなかに沙也加さんがいた。
周囲に気を配り、皆が楽しめるように話題をふって、その場を盛り上げようとしていた晃太郎さんに、沙也加さんは惹かれるものを感じたという。そしてその1カ月後、仕事が上手くいかなくなり余裕を失ったとき、ふと心に浮かんだのが、晃太郎さんの明るい笑顔だった。
「彼女から、『よかったら食事にいきませんか?』とLINEで誘われた時は、嬉しかったです。子どもの頃に好きだったポケットモンスターの話で盛り上がり、気が付いたら、あっという間に時間が過ぎていました」
はじめは友達感覚の二人だったが、何度か食事に出掛けるうち、互いに安心感を感じるようになった。そして6月末、晃太郎さんは意を決して沙也加さんをデートに誘った。
「大阪の梅田で、観覧車やお化け屋敷を一緒に楽しんだ後、沙也加さんを家まで送る際、少しでも一緒にいたくて遠回りの帰り道を選びました。途中で雨が降り始めたので、一つの傘をさして、お互いに濡れないよう手を繋いで帰ったのを覚えています。沙也加さんの自宅に着いても、離れるのが名残惜しくて、そのまま『付き合ってください』と伝えたら、『はい』と答えてくれました」
仕事が不定休だった二人は、休みを合わせてデートを重ね、お互いの両親にも紹介し合い、順調に交際を進めていった。
緊急手術
ところが付き合い始めて1年ほど経ち、大阪市内にある沙也加さんのマンションで過ごしていた時のこと、体調の悪くなった沙也加さんが嘔吐した。晃太郎さんが介抱しているうちに、頭痛も訴えた沙也加さんは意識を失ってしまい、晃太郎さんは救急車を呼んだ。
「医者からは『ご家族ではないので、詳しく伝えられませんが、小脳から出血を起こしています』とだけ伝えられました。緊急手術を開始するには、家族の同意が必要だったんですが、家族ではない自分はサインが出来なくて、彼氏という立場がもどかしかったです」
1時間後に、沙也加さんの母親が隣県から病院に駆けつけて同意書にサインをした。執刀医の説明に同席した晃太郎さんは、沙也加さんが脳動静脈奇形によって脳出血を起こしたと知り、不安に押しつぶされそうになった。
幸い7時間半に及ぶ手術は無事に終了したものの、沙也加さんの意識が戻ったのは、3日後のことだった。
「何かを訴えようとしているのは分かるんですが、当初は何を言いたいのか分かりませんでした。ただ、言葉にならなくても、『ごめんなさい』と繰り返し謝っていることだけは分かりました」
晃太郎さんは職場に事情を話して、毎日病院に面会に訪れたが、沙也加さんの言葉が不明確で、話す内容の2割ほどしか聞き取れなかった。
「それでも、自分のことを覚えてくれていたことで、なんとかなるという根拠のない自信が湧いてきたんです。母親の影響で触れた生長の家の教えにある、人や物事の明るい面に心を向ける『日時計主義』の生き方を学んでいたおかげで、暗澹(あんたん)たる思いに陥ることがありませんでした」
決意
沙也加さんは当時を振り返り、意識が戻った後も、相手の問いかけに正常な反応ができず、晃太郎さんに迷惑をかけるだけなので、いつかは別れることになると覚悟していたと話す。だが、灰色の入院生活のなかで、晃太郎さんがお見舞いに来てくれる時間は輝いていた。
「毎日お見舞いに行き、話しかけるたびに、少しずつ言葉を取り戻していることを感じていました。でも退院後、一人で生活をしていくことは難しいんじゃないかとも感じていたんです」
沙也加さんを支えたいとの思いで、結婚を意識し始めた晃太郎さんだったが、まだ25歳という年齢で、一人の女性の人生に対して責任を負う自信が持てなかったと振り返る。
「そんな時、生長の家総本山(*1)で行われている団体参拝練成会(*2)に参加しました。聖経(*3)読誦や神想観(*4)を通して、結婚への不安や沙也加さんへの思いを見つめ直していたら、生長の家で説かれている『人間は本来素晴らしい神の子であり、物質的な肉体ではなく霊的実在である』という教えが、心の底から真実だと思えたんです。それが呼び水となって、ためらいを吹っ切ることができました」
生長の家総本山から戻った9月末、晃太郎さんは、約4カ月の入院生活を経て数日後に退院できることになった沙也加さんにプロポーズをした。
「試験外泊をしていた沙也加さんを近所の公園まで散歩に連れ出し、そこで『僕と結婚してください』と伝えました。沙也加さんは、心のどこかで僕との結婚に対して淡い期待を抱いていたらしく、驚きつつも『はい』と答えてくれました」
二人は2018年12月に入籍。結婚生活を始めると、沙也加さんは驚くほどの回復をみせ、日常生活には困らないようになった。
「自分の根本に『人間は神の子である』という教えがあったので、どんな困難があったとしても乗り越えられる自信を得ることができました。お互いを神の子として拝み、敬う心があれば、二人にとって問題は大きな困難ではなくなると思います」
その後、二人の間には、2021年4月に長女が、今年6月末に双子が誕生し、家族5人となった。
「幸が初めて妹たちを見たとき、二人の頭を撫でながらヨシヨシをしてくれたんですよ。双子の愛と心は自然に手を繋いで寝ていることがあるんです。双子だからか、安心するみたいですね」
中本晃太郎さんは、沙也加さんと3人の子どもを愛おしむように、満面の笑顔を見せた。
*1 長崎県西海市にある生長の家の施設。龍宮住吉本宮や練成道場などがある
*2 合宿して教えを学び、実践するつどい
*3 生長の家のお経の総称
*4 生長の家独得の座禅的瞑想法
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特集解説|幸せな恋愛・結婚をするために大切なこと
最近は、新型コロナウイルスの感染拡大の影響などによる社会不安のなかで、コロナ禍以前より「結婚したくなった」という未婚者の割合が増えるなど、若者の意識にも変化が生じているそうです。そんな中でも、どのようにして恋愛や結婚をすればよいのかと、悩む方がいるかもしれません。
▪️結婚の意義とは
まず、「何のために結婚するのか?」について考えてみましょう。
生長の家では、結婚相手のことを「魂の半身(はんしん)」という言葉を使って説明しています。この言葉の意味を勘違いしやすい点として、「私の魂は半分しかなくて、残りの半分として、どこかに理想の人がいて、不完全な私を完全にしてくれる」という考え方があります。しかしこれでは、自分も相手も、結婚するまでは不完全な存在であると考えてしまうことになります。
『日々の祈り──神・自然・人間の大調和を祈る』(生長の家総裁・谷口雅宣著、生長の家刊)のなかに収録された「真我を自覚して『魂の半身』と出会う祈り」には、こう説かれています。
「一個人と見えていた人間同士が互いに個性を発揮し、内在の神性・仏性が動き出し、潜在能力が開発され、『五』にも『十』にも拡大するのが結婚生活です」
このように、私達一人ひとりが完全な存在である「神の子」だと自覚し、その完全な存在である私達が、パートナーの「魂の半身」とともに、さらに自己を開発していくことが「結婚」なのだと生長の家では説いています。
まずは結婚の意義を知ることが、幸せな恋愛・結婚への第一歩ではないかと思います。
▪️互いに愛を与え合う
今回の特集ルポでは、中本晃太郎さんと沙也加さんのご夫婦が、ご一緒に困難を乗り越えられた体験が綴られています。結婚とは、相手に何かを求めるのではなく、互いに愛を与え合い、生かし合いの姿を具体的に表現する機会であると深く心を打たれました。
私自身は、26歳の頃から結婚したいという想いを持っていましたが、なかなかご縁がなく、貯金もなく、本当に結婚できるのか不安な時もありました。それでも、「私の魂の半身は必ずいる!」と信じ、それを紙に書いて祈るとともに、先祖を供養し、生長の家の本を読み、愛行(*)などを実践し、信仰を深めていきました。
すると、意外なことからご縁が生まれ、31歳の時に妻と出会い、3カ月後にはプロポーズをして結婚しました。結婚してから7年が経ち、共働きでの家事・育児の分担の仕方や、なかなか第2子を授かることができないことで悩む時期もありましたが、“魂の半身”である妻とともに成長し、楽しみ、貴重な体験をさせていただいていると思います。
これから恋愛や結婚を考えている方に、私が実践していたことをご紹介します。それは、毎日の明るい出来事などを書きとめる『日時計日記』(生長の家白鳩会総裁・谷口純子監修、生長の家刊)に、出会った相手の良い点を書くことです。そうすることで、相手を厳しく判断してしまうのではなく、相手の素敵な面や思わぬ魅力に気づけるようになりました。そこからチャンスが広がり、恋愛に発展する可能性が高まり、現在の妻との出会いにつながったのだと実感しています。
あなたが希望に満ち、喜び溢(あふ)れる人生を送られますことを、心からお祈りしています。
* 生長の家の月刊誌配布など、愛の行い
松尾憲作(まつお・けんさく)
生長の家本部講師補
1982年長崎県生まれ。生長の家国際本部勤務。2016年から生長の家本部講師補。家族は妻と6歳の娘と今年生まれた息子の4人。