西谷喜代(にしたに・きよ)さん(69歳)
大阪府島本町
取材/原口真吾(本誌) 撮影/堀 隆弘
西谷喜代さんと夫の良治さん、次女の蒔田雅子さん夫妻と、その長女(中1)、長男(小1)の6人と一緒に、西谷さんが借りている畑を訪れると、赤々としたイチゴが実をつけていた。
表面についた土をさっと払い、ほおばった小1の孫は「甘ずっぱい!」と笑顔を浮かべる。そんな弟の姿を見て、姉もイチゴを口に含み、「おいしい!」とひと言。孫たちも大満足の出来ばえに、西谷さん夫妻の顔もほころんでいる。
「キュウリでも、トマトでも、その場でもぎ取ってかじりつくんですよ。採った野菜は宝物のように、大事に持ち帰ってくれます」
と喜代さん。他にも玉ねぎやジャガイモが大きく育っており、無農薬・無化学肥料の畑には、ミツバチをはじめ、さまざまな虫たちが訪れる。
子どもたちから少し離れたところでは、カメラを手にした雅子さんが、夫婦でジャガイモの花やネギ坊主を撮影しており、会話もはずんでいた。
「肥料は畑の雑草や野菜の茎、生ゴミに米ぬかを混ぜて発酵させた、ぼかし肥料を使っています。化学肥料と違って、じんわりと効いていく栄養が野菜の味を変えるんです。おすそ分けする近所の方からも、『西谷さんの野菜は甘い』と評判なんです」
と良治さんが胸を張る。
雲一つない晴天に恵まれた4月末のこの日は、汗ばむような陽気の中、キュウリ、ナス、トマトの苗の植え付けを行った。良治さんにひもの結び方を教わりながら、支柱にナスの苗を結びつける姉の横で、弟はこれから立てる支柱を手に取り、「船で冒険するの!」とオールを漕ぐように動かした。「外でよく遊ぶ子だからか創造力が豊かで、すぐに新しい遊びを思いつくんですよ」と、喜代さんが目を細める。
子どもたち二人は、土の匂いや感触を楽しみながら夢中になって苗を植え、最後に水をやると、「できた!」と土でよごれた手を誇らしげに見せてくれた。
「地球温暖化による気候変動が肌で感じられるようになった今、孫たちの未来のためにも、生長の家が勧めている、野菜づくりや自転車など、二酸化炭素の排出を抑えた低炭素のライフスタイルを心がけていきたいです」
そう話しながら、喜代さんは孫たちをまぶしそうに見つめた。
畑が優しい心をはぐくむ
喜代さんは小学生の頃、生長の家を信仰する母親に連れられて誌友会(*1)に参加し、「人間・神の子」の教えに触れた。昭和50年に良治さんと結婚し、一男二女を授かると、母親教室(*2)で教えられたようにマイナスの言葉を使わず、明るい言葉で子どもたちをほめ、神の子の神性を引き出すように心がけた。
しかし、長女は中学2年生の時、元気を無くした時期があった。
「元気が出るようにと思いを込めて、娘が学校に持っていくお弁当におかず一品一品を詰め、日記には『これから良くなる、ますます良くなる。良くなるしかない』と書き続けました。2週間ほどしたある日、『お母さんの思いは伝わってるよ。ありがとう、もう大丈夫だから』と笑顔を見せ、また元気に登校するようになったんです」
子どもたち3人は喜代さんの愛情に応えてまっすぐ育ち、それぞれ結婚して、今では孫が5人になった。
次女の雅子さんは現在、京都府に住んでいるが、事あるごとに家族で西谷さんのもとを訪れる。長男夫婦の家は西谷さんの自宅から歩いて5分ほどの場所にあり、6歳の孫は、幼児教室の帰りによく遊びに来てくれるという。孫たちはみな、「おばあちゃん、何してるの?」と畑仕事をする喜代さんに興味を持ち、自然と畑の手伝をしてくれるようになった。
「孫たちは野菜や花、虫たちとお友だちになっていて、まわりのみんなにも優しくできる子に育っています。玲香はいつも両手いっぱいのドングリや、公園で摘んだ花を『おばあちゃん、おみやげ!』とプレゼントしてくれるんですよ」
自然の恵みに感謝する
喜代さんは、家庭菜園を父親と一緒に始めるようになって、40年近くが経った。昔は雅子さんも畑でよく土遊びをしていたそうだ。
「小さな種から芽が出て実がなると、いつ見てもいのちの不思議を感じます。収穫の喜びはもちろんですが、手塩にかけて育てた野菜をおいしそうに食べてもらえるのは、それ以上ですね。孫と一緒に花や野菜の苗を選ぶのも、幸せなひとときで、畑を中心に家族の絆が深まっているように感じます」
喜代さんは今でも父親が遺してくれたメモの日付を参考に、野菜の苗を植えているが、近年は気候変動の影響か時期が合わなくなってきており、受粉を助けてくれるミツバチも、いつの間にかあまり見かけなくなった。
生長の家で、人間は自然の一部であり、自然の恵みに感謝し、自然に与え返す生き方が大切だと学び、喜代さんは深く共感した。また、世界には飢餓で苦しんでいる人々がいることにも思いを馳せ、ふだんの食事を感謝の気持ちでいただこうという思いを新たにした。
畑では孫たちと、野菜の生長をともに喜び、自然の恵みのありがたさを、心と体で感じている。
「土に触れていると純粋な喜びが湧き、気持ちが優しくなっていきます。孫たちには野菜づくりを通して、野菜も虫たちも、みんな同じ“いのち”を生きているんだと、感じてくれたら嬉しいですね」
喜代さんの思いは、子から孫へと、畑の思い出とともに伝わっている。
*1 教えを学ぶつどい
*2 母親のための生長の家の勉強会