香川侑子(かがわ・ゆうこ)34歳/大阪府泉大津市 撮影/永谷正樹

香川侑子(かがわ・ゆうこ)34歳/大阪府泉大津市
撮影/永谷正樹

 平成30年9月4日、大型の台風21号により、関西や東海地方で大規模な停電が発生し、わが家も5日間にわたって停電しました。

 台風が上陸したその日の昼、私は家の窓のシャッターを閉めて、激しい風の音に怖がる4歳の長女をなだめながら、一緒にテレビを観ていました。家には夫の祖父母と義父、義弟が一緒にいました。午後2時を過ぎた頃、突然停電し、部屋の中が真っ暗になりました。しばらくすれば復旧するだろうと思い、長女を連れて比較的明るい玄関の方に移動し、台風が過ぎるのを待ちました。

 午後4時頃には台風は過ぎて風も弱まってきたので、様子を見に外へ出ると、道路には生ゴミなどが散乱し、瓦が落ちている家もありました。こんなに強い台風だったのかと驚きました。掃除を始めていた近所の方を手伝おうとしましたが、その時私は長男を妊娠中で、臨月ということもあり、周りの方から止められました。

 電気が復旧しないまま夕方になり、夜に備えて懐中電灯を探しましたが、見つかりませんでした。非常食の備えもなく、オール電化のわが家では調理もできないので、あわてて買い物に出かけました。駅前のスーパーでカセットコンロを購入できたものの、懐中電灯は売り切れていて、夫に頼んで仕事の帰りに買って来てもらいました。その日は買ってきた総菜と、炊飯器に残っていたご飯をおにぎりにして、即席の夕食を作りました。

さりげない気遣いのありがたさ

借りている市民農園で。夏の太陽の下、青々と葉を茂らせる野菜の生長ぶりに笑みがこぼれる

借りている市民農園で。夏の太陽の下、青々と葉を茂らせる野菜の生長ぶりに笑みがこぼれる

 私は子どもの頃に母親に連れられて参加した生命学園(*1)で、生長の家の「人間・神の子」の教えに触れました。また、夫の家族も一家で生長の家を信仰していますので、心にある思いが、善いことでも悪いことでも現象に現れてくるという「心の法則」を学んできました。さらに、日頃から生活の中の喜びや感動、明るい出来事などに心を向ける「日時計主義」が大切だということも、家族皆の中に根づいているせいか、ロウソクの明かりで過ごす夜も、「キャンドルナイトみたいだね」と、非日常感を楽しむ心の余裕がありました。

 翌日も電気は復旧しませんでしたが、幸い天気に恵まれたので、屋根に設置したソーラーパネルで発電することができ、炊飯器や洗濯機を動かし、スマホの充電もしました。しかし、炊飯器は消費電力が多いためか、日が陰ると止まってしまうので、「お願い! 曇らないで」と空に向かって祈りました。電気のありがたさと、太陽の恵みの尊さを感じた瞬間でした。

 しかし、いつまで停電が続くのか分からず、先の見えないストレスから、家族の皆が少しずつピリピリし始めているのを感じました。私も臨月の身をおして被災生活を懸命にこなしている中、長女が構ってほしいと度々来て、ついイラッとしてしまうことがありました。そんな時、夫は洗濯物を運んでくれたり、長女を連れて買い物に出かけてくれたりと、さりげなく気遣ってくれることが嬉しく感じました。

 停電3日目は雨で、とても蒸し暑い日でした。太陽光発電ができず、扇風機もエアコンも動かない環境は、まるでお腹に湯たんぽが入っているような臨月の私にとって辛いものでした。さらに、朝からお腹がよく張り、夜には暑さと張りの辛さに耐えられなくなって、歩いて数分の所にある産院に行きました。すると、破水していることがわかり、そのまま入院となったのです。私だけがエアコンが効き、食事も出てくる快適な空間に移り、停電したままの家にいる家族を思うと、申し訳ない気持ちになりました。

 5日目の夕方、電気が復旧したと夫から聞き、やっと肩の荷が下りました。それから数日して、長男が無事に誕生しました。

未来のためにできること

「自分の中にある愛を外に広げ、自然の恩恵に感謝し、与え返すライフスタイルを実践していきたいです」

「自分の中にある愛を外に広げ、自然の恩恵に感謝し、与え返すライフスタイルを実践していきたいです」

 今回の被災で痛感したのは、防災意識の低さでした。近年の気候変動で、各地に被害が出ていることはニュースで知っていましたが、どこか他人事という感じでした。それが今回、自分の身に降りかかってきたのです。「神様が創られた実相(*2)の世界は完全円満である」と生長の家では説きますが、人間の心を映し出して移り変わりゆく現象世界に対しては、適切な備えをすることが必要だと実感しました。

 今では非常食やポータブルトイレを、家族で決めた場所に置いています。昨年(2019)の夏に台風が来たときは、事前にご飯を炊いておにぎりを作ったりと、自然と備えられるようになりました。

 台風の大型化は、地球温暖化による海水温の上昇が原因と言われていますが、これは化石燃料に依存した私たちのライフスタイルによるものです。さらに動物が起源と言われている新型コロナウイルスの感染拡大は、人間と動物が調和して生活できる適切な距離を、人間が侵した結果とも言われています。自然を尊重し、生かし合いと棲み分けを大切にしようという自然界からのメッセージとして、受けとめることも必要です。

 生長の家の「神・自然・人間は本来一体である」という教えに基づいた、自然環境に負荷をかけない低炭素のライフスタイルの実践として、わが家では年間のエネルギー消費量が実質ゼロになるゼロエネルギーハウスの自宅を建て、市民農園の一画を借りて野菜作りもしています。

 コロナでの自粛期間中は、家族で農園に出かけ、夫が畑を耕す傍らで、智美はダンゴムシやバッタと一緒に遊んでいました。今年はオクラとトマト、トウモロコシを種から育てました。智美は「大きくなってね」と愛情を込めて水をやり、生長を喜んでいます。いのちの不思議さを感じ、自然を慈しむ心が育ってほしいと思います。

 人は非日常に遭遇すると、自分のことしか見えなくなりがちですが、日頃から周りの人や自然に愛を表現していれば、いざという時にも困っているご近所さんに意識が向きます。その意識が近所から地域、社会へと広がっていけば、地球の変化を自分のことのように感じるまで意識は拡大するはずです。

 災害という現象を無闇に恐れて、パニックを起こしたり、買い占めに走ったりするのではなく、必要に応じて適切に備えつつ、普段から倫理的なライフスタイルを実践して愛を広げ、自然と人間が調和した世界が実現することを願っています。

*1 幼児や小学児童を対象にした生長の家の学びの場
*2 神によって創られたままの完全円満なすがた