近頃、街で電気自動車を見かけることが増えてきました。環境への配慮を意識している人は、バッテリーとモーターで走る電気自動車を選び始めています。女性目線で、電気自動車を選ぶメリットや使い心地をお伝えします。

田上(たがみ)めぐみさん (67歳) 福岡県 田上めぐみさんと愛用の電気自動車 取材/原口真吾(本誌) 撮影/髙木あゆみ

田上(たがみ)めぐみさん (67歳) 福岡県
「出先で充電している間は付近を散策したり、お店に立ち寄ったりしています。キノコが生えているのを見つけることもあり、新しい楽しみが増えました」
取材/原口真吾(本誌) 撮影/髙木あゆみ

広がる電気自動車の輪

 田上めぐみさん宅では、8年前に電気自動車を購入した。それまでは軽自動車が日常の足だったが、生長の家の地方講師(*1)でもある田上さんは、自宅からおよそ1時間かけて福岡県教化部(*2)に通ったり、県内各地で開かれる誌友会(*3)へ講師として出かけたりすることが多く、地球温暖化の一因である二酸化炭素の排出が気になっていたという。

 田上さんの実家では両親が生長の家を信仰しており、小学生の頃から生命学園(*4)に参加していた。高校に進学後、看護師を志した田上さんは、生長の家の書籍を熱心に読むようになった。看護学校を経て病院に就職してからは、「病気」という現象にとらわれず、「人間は神の子であり、実相(*5)は完全円満である」という教えを生かして、患者のいのちそのものを観るように心がけた。昭和54年、生長の家の信徒である修さんとの結婚を機に退職し、三男三女に恵まれ、生長の家の伝道活動も夫婦で熱心に取り組んできた。

 ある時、自動車で教化部まで通っていた北九州市に住む信徒仲間から、環境のことを考えて、時間が掛かっても電車で通うことにしたと聞いた。二酸化炭素の削減は大切だが、現在乗っている軽自動車は何かと便利だから、他の部分で環境保全にしっかり取り組もうと思っていた田上さんは、その潔さにはっとした。

「地球環境問題は“真剣勝負”で取り組まなければと思いました。『これくらいは大丈夫』と、いつまでもぬるま湯に浸かっている心地でいて、間に合わなくなってからでは遅いんです。夫とは、これからの時代は低炭素のライフスタイルが求められているから、いずれは電気自動車にしたいねと話し合い、夫婦で思いを深めていきました」

 そんな時、隣の市に住む友人が、日産のディーラーで電気自動車を購入すると、太陽光パネルを設置している家庭には無料で家庭用の充電設備を取り付けてくれるキャンペーンをしていると教えてくれた。ちょうど自宅の屋根には5.12kWの太陽光パネルを設置してあったので、修さんに話してみることにした。すると「善は急げ」タイプの修さんは、すぐに近所のディーラーへ出掛けていき、そのまま購入の契約をしてきたという。

 昼間に自宅で充電すれば、太陽の自然エネルギーだけで走らせることができ、安全性に問題がある原子力発電や、二酸化炭素を排出する火力発電に依存しなくてもよくなる。持続可能な社会の実現に向けてまた一歩踏み出せたことに、田上さんは嬉しくなった。

「電気自動車に初めて乗ったとき、音が静かで、スーッと気持ちよく加速することに驚きました。軽自動車ではアクセルを踏み込まないと登れない坂も、電気自動車ならスイスイです」

 未だ価格が高いというイメージがある電気自動車だが、電気はガソリンよりも安価で、ガソリン車と比較してエンジン回りの部品が必要ない構造のため、メンテナンス費用を抑えることができる。長期的に見れば、それほど高価ではないと田上さんは言う。また、災害時には非常用の電源になるのも、大きなメリットである。

 田上さんが電気自動車を購入した八年前は、電気自動車が流通し始めて間もない頃で、周りにはほとんど充電設備がなかった。それが今では様々な施設に充電設備が設置され、急速充電器も一般的になった。バッテリーの残量を気にしながら走行する必要はあるものの、ストレスは以前に比べて軽減された。社会の構造が低炭素に向けて変化していることを実感するという。

 2年前に福岡県教化部で開催された「自然の恵みフェスタ(*6)」では、田上さんと教区の信徒が所有する電気自動車計3台を並べて展示し、来場者に実際に機能や座り心地を体験してもらった。田上さんがいつもメンテナンスを依頼しているディーラーの担当者も、宣伝に駆けつけてくれた。

「男性は航続距離を、女性は価格を気にする方が多かったですね。私の使用感を伝えると、次の車は電気自動車を検討したいという前向きな声をいただけました。みなさんの意識が変わり始めていることを感じて、とても嬉しくなりました」

環境意識を育む

自宅の屋根に設置した太陽光パネルで、クリーンな電気を供給

自宅の屋根に設置した太陽光パネルで、クリーンな電気を供給

 田上さんの実家は長崎市の郊外にあり、すぐ近くにはハヤなどの淡水魚が棲む、清らかな川が流れる自然豊かな場所だった。子どもの頃は、柿の木に登って景色を眺めるのが好きだったという。しかし、昭和57年7月に長崎県を襲った、長崎大水害と呼ばれる集中豪雨によって、実家近くの川が氾濫し、その風景は一変した。幸い家族は無事だったが、家財は流され、結婚式で着た留袖も失ってしまった。ゲリラ豪雨の先駆けとも言うべき自然災害だった。

「地球温暖化が深刻になれば、あの時のような自然災害が頻発するようになると思いました。世界各地で起こっている自然災害も、他人ごとではありません。温暖化の原因となる生活をしないようにするためには、自然から与えられてきた恩恵に感謝し、自然に与え返すという、昔は当たり前だった価値観を見直すことが大切だと思います。人間の便利さを追求した開発によって、川からは魚が姿を消してしまいました。人間も自然の一部であることを思い出し、できるだけ環境に負荷をかけない倫理的な生活が求められています」

さらに一歩進んだ倫理的な選択を考える

 一方で周囲との温度差を感じることもある。例えば近しい人に低炭素のライフスタイルの大切さを話し、LED照明を提案の一つとして勧めることもあるが、とっさにまだ替えなくてもいい理由を挙げる人が意外に多いという。

「気候変動によって、生活の土台が無くなってしまうかもしれないのに、自分のこととして環境問題を考えている方が、まだまだ少ないように思います。少し考えてみれば、日常生活の中のあらゆることが二酸化炭素の排出に繋がっていることが分かりますから、できることはたくさんあるはずです」

 昨年、うれしいことがあった。電気自動車の購入から8年が経ち、走行距離は10万キロを超えた。満充電で約170キロあった走行可能距離は、バッテリーの劣化によって80キロまで落ちてしまったが、メーカーの保証が適用され、バッテリーを交換してくれたのだ。

「本当にありがたいお話でした。電気自動車は二酸化炭素の排出を大きく削減してくれますが、方法によっては発電にも二酸化炭素が排出されますから、電気自動車に乗ってさえいればいいという思いになってはいけないと思います。電気自動車に乗って、その魅力を周りに発信しつつ、一方では運動を兼ねて歩いたり、自転車や電車を利用したりと、“使用しない”という選択肢も視野に入れて、電気自動車を足がかりに、さらに一歩進んだ低炭素のライフスタイルを考えていきたいです」

 田上さんはその先にある未来のため常に柔軟に考え、より倫理的な生活を実践している。

街を一望できる高台の公園で

街を一望できる高台の公園で

*1 教えを居住地で伝えるボランティアの講師
*2 生長の家の布教・伝道の拠点
*3 教えを学ぶつどい
*4 幼児や小学児童を対象にした生長の家の学びの場
*5 神によって創られたままの完全円満なすがた
*6 自然と調和したライフスタイルの具体例を地域の参加者と共有し、体験・体感する行事