子どもたちは大人が思う以上に、環境問題を素直に受け止めているものです。
次世代を担う子どもたちに、自然と調和する心を育むためにも、地球に生きるいのちの尊さを伝えましょう。

橋本あきこさん 静岡県浜松市
「自然も人も、その本性は神のいのちで素晴らしいものだと、子育てや野菜作りを通して実感しています」
取材/原口真吾(本誌) 撮影/堀 隆弘
土に親しむ家庭菜園
橋本あきこさん一家が、10年前に現在住む浜松市の郊外に引っ越して来たときは、庭の土は粘土質で水はけが悪く、雨が降ると足首まで浸かる水たまりができるほどだった。橋本さんと夫は、この庭を菜園にするために耕し、出てきた石を丁寧に取り除いて、枯れ草や腐葉土を足していった。
「最初は雑草も生えないような庭でしたが、3年ほどかけて少しずつ、野菜が育つようになっていきました」
今では野菜が青々と育ち、無農薬、無化学肥料の菜園にはさまざまな昆虫が訪れ、多くのいのちが息づいている。夫は春野菜を植える前と、夏野菜の収穫が終わった後の年2回、耕運機を使って土を耕す。すると、庭はふかふかな土となり、その上を子どもたちが裸足で駆け、思いっきり土遊びをする。小学5年生の長男だけでなく、高校3年生の長女と、中学3年生の次女も、この日は一緒になって土の感触を楽しむ。
「長男は幼稚園の時、朝の送迎バスに乗る前に、庭で1時間近くもトンネルを掘っていたことがありました。『土の色が変わってきたね』と、私も一緒になって楽しんだんです。子どもの内にある原石を磨くには、心が動いた瞬間を逃さないことですね。その時に必要としているものを察して与えるのは、野菜作りのコツですが、それは子育てにも通じると思います」

長女、長男と一緒に和気あいあいと家族でごはん。ミニトマトは長男が米のとぎ汁を与え、愛情を込めて育てた
生長の家を信仰する両親から教えを伝えられた橋本さんは、「人間は神の子で、完全円満である」ことを学び、子どもの善性を信じて、成長を見守っている。母親教室(*)では、「愛されたい。ほめられたい。認められたい。お役に立ちたい。自由でありたい」という人間の5つの根本願望を知り、親の意見を押し付けず、それぞれの個性を認めて伸ばすことの大切さを知った。

ソイミートカレーとショウガの利いたスタミナスープ、カボチャの南蛮漬け。左上のニンジンケーキは長女の手作り
「子どもたちとはよく夢を語り合い、どうすればその夢を実現できるか、一緒になって考えます。子どもが夢への道筋を見つけ、自分の力で歩んでいく手伝いをすることが、親がしてあげられることだと思っています。夢は途中で変わるかもしれません。でも、それまでに注いだエネルギーは決して無駄ではなく、将来の道を切り開く力になります」
野菜や虫たちへの愛
秋の気配を感じる10月のこの日、橋本さんと長男は、半畳ほどの面積を鋤で耕し、カブの種蒔きをした。長男は土の中に棲むミミズを傷つけないように、「ミミズさん逃げてね」と声をかけながら、慎重に土を掘り返していく。その後、橋本さんが長男の手のひらにカブの種をサラサラと落とすと、長男は「こんなにちっちゃいんだ」と興味深そうに見つめた。
「カブは家族みんなの大好物なんです。子どもたちは野菜の生長を毎日見ていますし、自分の手で収穫しますから、愛着が湧くんでしょうね。ピーマンやゴーヤ、パセリなども好き嫌いなく、喜んで食べてくれるんですよ」
朝、夫と子どもたちを送り出した後が、橋本さんの菜園の時間になっている。無心になって雑草を抜いていると、心が癒されるという。
「いつも雨風と太陽にさらされている土には、何でも受け止めてくれるような大らかさを感じます。ときおり、さぁっと吹く風が、私の悩みを流してくれて、お日様の暖かさも私を元気づけてくれるんです。菜園を訪れる鳥やチョウ、バッタを眺めていると、自分も虫も動植物も、自然の中で一つに繋がっているんだと実感します」
菜園では虫の住処を奪わないよう、ほどほどに雑草を残している。刈った草も一箇所に集めて堆肥化させて畑に戻し、肥沃な土がまた野菜を育てるという、いのちの循環が生まれている。虫が野菜を食べてしまうこともあるが、様々な種類の昆虫がいる菜園は生態系のバランスが取れているからか、根こそぎ食べられてしまうことはなく、家族の食べる分はちゃんと残るという。
小さな疑問から地球へ
そんな橋本さんの菜園と周りの畑を比べて、「雑草は本当に邪魔ものなのかな?」と疑問を持ったのが長男だった。それをきっかけに、台風や、海水のしょっぱさ、蚊、インフルエンザなど、自然界にある一見必要ではないと思えるものを、橋本さんと話しながらいくつも挙げていき、一昨年の夏休みの自由研究のテーマにした。調べてみると、雑草は地中の微生物を育んでいることや、土の流出を防いでいること、地面の温度が上がりすぎないようにしていることなど、隠れた役割が次々と明らかになった。

ブロッコリーに米のとぎ汁を与えて生長を観察。「自分で育てた野菜はおいしい!」と満面の笑顔で話してくれた
「長男が研究してくれたおかげで、雑草の役割が分かり、やっぱりこの世界に無駄なものはないんだと確信しました。自由研究のまとめには、〈これからは雑草を見ても、『地球を守ってくれてありがとう』と思いながら、草取りをする〉と書いてあって、広い視野と思いやりの心が育っていることに感動しました」
「雑草は邪魔ものなのかな?」という小さな疑問から新たな疑問が浮かび、昨年は、「今まで無駄だと思って捨てていたものを利用する」取り組みとして、生ゴミと米のとぎ汁を土に与えてミニトマトを栽培し、何も与えない場合との比較実験を行った。数日が経過すると、土に混ぜた生ゴミから小バエが発生したが、調べてみると生ゴミを分解してくれていると分かり、自然界の共生の仕組みを目の当たりにした。そして実験の結果、米のとぎ汁と生ゴミを与えて育てると、実が甘くなり、数も多くできることが分かった。今ではミニトマトだけでなく、様々な野菜に米のとぎ汁を与えて観察している。
昨年(2020)8月17日、浜松市では国内観測史上最高気温となる、41.1℃を記録した。午後、洗濯物を取り込みに2階のベランダに出た橋本さんは、息をするだけで喉が焼けるような熱を感じ、地球環境に対して危機感を覚えたという。長男のいるクラスを中心に、橋本さんが行っている小学校の読み聞かせボランティアでは、地球環境をテーマにした読み聞かせを積極的に行うようになった。

長男が手がけた自由研究の作品
ビニール袋1枚でも、海に流れて魚や鳥が誤食すれば大変なことになる。橋本さんは運転中でもゴミを見つけたら、車を停めて拾ったり、マイ箸やマイバッグを携帯して、プラスチックの使用を減らすようにしている。すると、子どもたちも自発的にゴミ拾いをしてくれるようになった。
「環境問題のことを考えると悲観的になりがちですが、実相という神様が創られた完全円満な世界がすでにあることを知れば、希望が湧いてきます。実相の世界を現象に現すため、地球環境に負荷をかけない倫理的な生活を、子どもたちと一緒に実践していきたいと思います」
庭の菜園は子どもたちの心を豊かにはぐくみ、その思いやりの心は、今、世界へと向けられている。
* 母親のための生長の家の勉強会