イラスト/ろぎふじえ

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 日本国憲法第96条は、憲法の改正について定めた条文です。1項は改定手続きについて、「この憲法の改正は、各議院の総議員の3分の2以上の賛成で、国会が、これを発議(はつぎ)し、国民に提案してその承認を経なければならない。この承認には、特別の国民投票又は国会の定める選挙の際行はれる投票において、その過半数の賛成を必要とする」と定めています。これはすなわち、衆参両院について各々3分の2以上の賛成が得られたならば、国民投票を実施することができますが、そこで過半数の賛成が得られなければ改正はできないということです。

 さて、憲法改正手続に関して2つの考え方があります。それは、一般の法改正よりも手続を厳格にして改正が行われにくくしようとする硬性憲法と、一般の法改正と同程度でよいとする軟性憲法の2つです。硬性憲法であれば、恣意(しい)的な改憲が行われにくくなり、権力を制限する憲法の最高法規性が維持されやすくなります。例えば、国家権力に都合のよいように人権を制限してしまおう、といった憲法改正が出来にくくなります。

 日本を含め、世界のほとんどの国では硬性憲法の手法を採っています。日本では、各議院の総議員の3分の2以上の賛成で国会が発議することができますが、それよりも厳しく4分の3以上とする国もあります。フィリピン、台湾、モンゴル、ブルガリア、シリア、ロシア、南アフリカなど7カ国以上あります。また、憲法改正の議論を慎重にするために解散総選挙を介在させ、手続を厳しくしている国もあります。例えば、オランダは、下院が憲法改正案を過半数で可決した時に下院が解散され、新議会の上院、下院の両議院の投票総数の3分の2以上の賛成が得られなければなりません。ベルギー、アイスランド、フィンランドも解散総選挙を取り入れています。スウェーデンなどは、国会が同一の文言による改正案を2回議決することが必要となり、この間に総選挙が行われるという方式です。

 ところで最近日本では、第96条1項の“総議員の3分の2”が非常に厳格であるというので、2分の1に変更して必要な改正を行いやすくしようという意見を耳にするようになりました。

 しかし、先に紹介した他国の要件と比較してみると改正手続きが決して厳格であるとは言えません。また、多数派が少数派をないがしろにする「多数者の専制」を防ぎ、少数派の人権を保障するには、一般の法改正よりも慎重な要件が必要でしょう。加えて、憲法は社会の基本原理を定めるものですから、それを変更するとなれば、それが必要とされる明確な理由が必要です。

 ドイツやフランスなどでは憲法改正が何回も行われてきましたが、東西ドイツの統一や、欧州統合という国家構造における重大な変更があり、そのような中で改正要件を緩(ゆる)めることなく決議されてきています。ですから、日本国憲法の改正要件は厳しすぎるからそれを緩めなければならないと主張することは見当外れです。

参考文献 
谷口雅宣監修『誌友会のためのブックレットシリーズ3‌ “人間・神の子”は立憲主義の基礎──なぜ安倍政治ではいけないのか?』(生長の家、2‌0‌1‌6年)
・辻村みよ子著『比較のなかの改憲論──日本国憲法の位置』    (岩波新書、2‌0‌1‌4年)
・長谷部恭男著『憲法とは何か』(岩波新書、2‌0‌1‌5年)