沖縄本島北部に位置する名護市。濱口卓也さんが妻の芳美さんと暮らす市営住宅は、市街地から車で15分あまりの自然豊かな山間にある。
訪れたのは、昨年(2021)の11月下旬だったが、この日の最高気温は26度と汗ばむ陽気だった。濱口さんは、「このところ少し寒かったので、昨日こたつを出したところなんですよ」と微笑みながら出迎えてくれた。
居間に入るとテーブルの上に、濱口さんがこれまで描いてきた作品が並べられていた。大半は、水彩絵の具や色鉛筆のパステルカラーを使ってハガキに風景や花などを描き、そこに言葉を添えた絵手紙。見ているだけで心が躍り、楽しい気分になる作品ばかりだ。
「通勤するときなどに、気になった花や風景をスマホで撮影し、それを基にまず鉛筆でデッサンし、水性ボールペンでなぞってから色を塗っていくんですが、そのときにふっと心に浮かんだ言葉を添えるようにしています」
だが、絵手紙は一気に描き上げるのではなく、一枚一枚、何日も時間をかけてじっくり描くのが好きなのだという。
「どんな色にしようかなどと考えながらコツコツと、少しずつ描くのが楽しいんです。ただ、暗い色は避け、できるだけ明るい色を使うように心がけています」
小さい頃から絵が好きで、長じてからも独学で水彩画を描き続けてきただけにその技量は確かなもの。令和2年、3年の「全国絵手紙公募展」では連続入選を果たしている。
濱口さんは、19歳のときに統合失調症と診断され、入退院を繰り返していた。だが、平成11年に結婚した妻の芳美さんの両親から生長の家の教えを伝えられ、それが人生の転機になった。
「義父母の家にあった『生命の實相』(生長の家創始者・谷口雅春著、全40巻。日本教文社刊)を読んで、『今を全力を出して戦いとれ』とか『断じて失敗を予想せざる者はついに勝つ』という言葉や、とくに『陰極は必ず陽転する』という言葉に励まされました」
教えを学ぶうちに統合失調症も軽減し、「自分のやりたいことに挑戦すること」が病状の一層の回復につながると確信するようになった。そして2年前に、福祉施設での仕事から、IT関連企業へ転職した。
絵の方も、生長の家の「技能や芸術的感覚を生かした誌友会」(*)に刺激され、絵手紙の制作に力を入れるようになった。
「さらに信仰に励みながら、いつか沖縄県の全市町村を巡って、そこで目にしたものを絵手紙に描いていきたいと思っています」
そう話す濱口さんの表情は、若々しく輝いていた。
* 生長の家の教えを学ぶ小集会