A 「個人の尊重」です。これは、基本的人権の尊重、国民主権、平和主義という基本原理の源となっています。

hidokei106_kenpou

 日本国憲法は、基本的人権の尊重、国民主権、平和主義の3つを基本原理としています。これらの原理は、立憲主義の歴史のなかで培われた根本的な考え方から出てきました。それが、「個人の尊重」です(*1)。

「個人の尊重」という概念は、中世ヨーロッパで行われていた絶対王政や、身分制を排斥する市民革命によって確立されました。国民一人ひとりを独立した個人として尊重し、その価値を最大限に評価しようという考え方です。

「個人の尊重」は、すべての国民を個人として尊重するため、誰に対する人権侵害も許しません。自分の利益のために他人を犠牲にすること(利己主義)も、国家や社会がその利益のために個人をないがしろにすること(全体主義)も許さないのです。

 つまり、「個人の尊重」は、人権侵害を防ぐための根拠となる考え方なのです(*2)。

「個人の尊重」の考え方に従って、国民一人ひとりの価値を最大限に評価しようとすれば、その一人ひとりの権利や自由は十分に守られる必要があります。ここから、「基本的人権の尊重」の考え方が出てきます(*3)。

 日本国憲法では、第13条で「すべて国民は、個人として尊重される」と規定されています。そして、この規定は、思想・良心の自由(第19条)、信教の自由(第20条)、集会・結社・言論・出版・表現の自由(第21条)など、すべての人権規定に先立っています。つまり、日本国憲法には、「個人の尊重」が最も大切な価値であり、その価値を守るために人権保障が不可欠であることが示されているのです。

 ところで、自民党は2012年に公表した改憲案で、13条を「全て国民は、人として尊重される」と書き換えています(*4)。「個人」を単なる「人」としたのは、自民党が「個人の尊重」を否定し、自然権に基づく人権保障をやめたいと考えているからです(*5)。今の自民党の改憲への動きの背景には、こうした考え方が潜んでいるのです。

*1 伊藤真著『伊藤真の日本一やさしい「憲法」の授業』70ページ 、KADOKAWA刊
*2 前掲書、68ページ
*3 前掲書、71ページ
*4 『日本国憲法改正草案』、5ページ(自民党憲法改正推進本部ホームページ)http://constitution.jimin.jp/draft/(2018年10月25日アクセス)
*5 樋口陽一、小林節著『「憲法改正」の真実』66~72ページ、集英社新書刊