A 日本国憲法の価値を知らずに改正を論じるのは危険です。

hidokei97_kenpou

 改憲論の一つに、“日本国憲法は一度も改正されず、時代に合っていない”という主張があります。

 自民党は、「世界の国々は、時代の要請(ようせい)に即(そく)した形で憲法を改正」しているのに、「日本は戦後一度として改正していません」と言っています(*1)。また、世論調査を見ても、憲法改正に賛成の人びとは、近年の安全保障環境の変化や新しい権利に対応する必要性を、その理由に挙げています(*2)。

 しかし、こうした論議ではしばしば、“大切なこと”が忘れられています。

 2012年の憲法記念日、朝日新聞に「日本国憲法 今も最先端」という記事が掲載(けいさい)されました(*3)。世界188カ国の憲法を分析した結果、日本国憲法は「世界でいま主流になった人権の上位19項目までをすべて満たす先進ぶり」だと判明したのです。民主憲法の代表と言われる米国憲法と比べると、団結権、女性の権利、教育の権利などは日本国憲法に規定がありますが、米国憲法には規定がありません。学者の一人は、日本国憲法を「65年も前に画期的な人権の先取りをした、とてもユニークな憲法」だと評価しました。

 一方、2016年12月、国連総会で「平和への権利宣言」が採択(さいたく)されました。この宣言には、日本国憲法の平和主義の理念が反映されています。「全世界の国民が、ひとしく恐怖と欠乏(けつぼう)から免(まぬ)かれ、平和のうちに生存する権利を有する」という、前文に謳(うた)われた「平和的生存権」の理念が宣言に取り入れられ、全世界の人びとに平和を享受(きょうじゅ)する権利を認め(第1条)、恐怖と欠乏(けつぼう)からの自由の保障を国家へ求める(第2条)こと等が確認されたのです。この宣言により、国家が関わる戦争や紛争に対して、個人が“人権侵害”だと訴える道が開かれることになりました(*4)。

 これらの事例が示しているのは、日本国憲法の先進性です。日本国憲法は、“個人の尊重”という本質において世界をリードしているのです。こうした日本国憲法の価値を知らずに安易に憲法改正を論じるのは、とても危険です。

*1 自由民主党憲法改正本部『日本国憲法改正草案Q&A増補版』(2013年)3ページ、https://jimin.ncss.nifty.com/pdf/pamphlet/kenpou_qa.pdf(2018年 1月21日アクセス)
*2「世論調査日本人と憲法2017」(NHK NEWS WEB)https://www3.nhk.or.jp/news/special/kenpou70/yoron2017.html(2018年1月21日アクセス)
*3「朝日新聞」2012年5月3日朝刊、13版、国際欄12面
*4「『平和に生きる権利』日本、採決反対 戦争を『人権侵害』と反対する根拠 国連総会で宣言」(東京新聞 TOKYO Web、2017年2月19日朝刊)