A 「法の支配」という考え方によって、人権保障と権力の制限はより確実なものとなります。

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 前々回と前回、日本国憲法の根底には「個人の尊重」の考え方があることを紹介しました。実は、その根底には、もう一つ、「個人の尊重」を補強する「法の支配」という考え方があります(*1)。

「法の支配」は、中世のイギリスで、権力者の勝手気ままな支配(「人の支配」)への批判として唱えられました。どんな権力者でも従うべき“法”があるとする考え方です(*2)。この考え方が自然権思想と結びつき、憲法によって国家権力を制限し、国民の権利や自由を守るという近代立憲主義のあり方が確立されました(*3)。

「法の支配」という言葉自体は、日本国憲法にはありませんが、その考え方はしっかりと盛り込まれています。それが10章の「最高法規」です。そこには、憲法が保障する基本的人権は「人類の多年にわたる自由獲得の努力の成果」として「侵すことのできない永久の権利」であり(97条)、「国の最高法規」である憲法に反する法律等や国の活動は無効であり(98条)、天皇、大臣、国会議員、公務員には憲法を守る義務がある(99条)と謳われています。憲法が最高法規として人権保障を目的とし、そのために国家権力を制限するという「法の支配」の考え方が示されていると言えるでしょう(*4)。

 一方、日本国憲法は、国が憲法に違反する活動をした場合、その活動を違憲と判断し、無効化する権限(「違憲審査権」)を裁判所に与えています(81条)。この規定によって、国が憲法に違反する活動をし、憲法の最高法規性を否定することがないように保障しているのです(*5)。

 ところで、自民党は2012年に公表した改憲案(*6)の「最高法規」の章に、国民の憲法尊重義務を新たに盛り込みました(草案102条)。ここには、憲法を、国民が国家権力を制限する法ではなく、国家が国民を制限する道具に変えようとする意図が窺えます(*7)。改憲を目指す今の自民党は、「個人の尊重」のみならず(*8)、「法の支配」をも危うくするような方向へ進もうとしているのです。

*1 伊藤真著『伊藤真の日本一やさしい「憲法」の授業』、78~80ページ、KADOKAWA刊
*2 芦部信喜著『憲法 第六版』、13~14ページ、岩波書店刊
*3 渋谷秀樹著『憲法(第2版)』、42~43ページ、有斐閣刊
*4 渋谷秀樹著『憲法への招待 新版』、17~18ページ
*5 前掲書、18~19ページ 
*6 『日本国憲法改正草案』、26ページ(自民党憲法改正推進本部ホームページ)http://constitution.jimin.jp/draft/(2018年12月15日アクセス)
*7 辻村みよ子著『比較のなかの改憲論』、71~72ページ、岩波書店刊 *8  『日時計24』1月号、40ページ