大阪の病院で働く田中翔子さんは、新型コロナウイルスの感染が拡大すると、罹患を避けるために、病院外では人と会うことを自粛するようになった。生長の家が勧める、自然重視・低炭素の表現活動であるクラフト製作に取り組むことで、そんな状況下でもストレスなく楽しく生活しているという田中さんに、クラフトの魅力について聞いた。

田中翔子(たなか・しょうこ)さん 大阪府・36歳・理学療法士 取材●長谷部匡彦(本誌)

田中翔子(たなか・しょうこ)さん
大阪府・36歳・理学療法士
取材●長谷部匡彦(本誌)

 大阪にある病院で理学療法士として働く田中さんは、身体が不自由な患者に対して、自宅に戻ってからも無理なく生活してもらえるように、歩行訓練や運動機能の回復のためのサポートに取り組んでいる。

余った布で作ったパッチワークのブックカバー(画像提供:田中翔子さん。以下同様)

余った布で作ったパッチワークのブックカバー(画像提供:田中翔子さん。以下同様)

「新型コロナウイルスの院内感染を防ぐために病院内では緊張感が漂っていますが、こういう時だからこそ、生長の家で説いている物事の明るい面や良い面を見る『日時計主義』の教えが大切なのだと思います。マスクで表情が見えなくても、明るい声がけひとつで雰囲気は明るくなるんです」

 日常生活では、実家の両親を含め、人との接触を極力避ける生活をするようになった。その一方で、ネットを活用して人とコミュニケーションをとるようになったことで時間に余裕が生まれ、自宅で手づくりを楽しむことができたと田中さんは話す。

「通勤や休日に使うマスクは、手づくりしたものを使用しています。その一つには日本に古くから伝わる刺繍の刺し子で柄を入れてみました。他にも、麻紐で野菜入れのカバンなどを編んだり、端切れなどを利用してパッチワークのブックカバーを作るなど、新しいことに挑戦して楽しんでいます。自分が着るワンピースを手づくりすることもあるんですよ。自分で作ったオリジナルなものは、使っていくたびに愛着が深まっていきます」

 手づくりした作品は、人にプレゼントすることも多いが、逆に人から手づくりの作品を貰うこともある。

「以前、お世話になっている方にお箸入れを作って差し上げたら、後日、その方から刺し子を施したお箸入れをいただいて、善意が循環していることを感じ、温かい気持ちになりました。いい方たちに囲まれていて幸せです」

上達する楽しみ

 田中さんは、洋裁をしていた母親と編み物が得意だった祖母の影響で、手づくりに興味を持つようになった。

フェルトに刺繍をいれた手帳ケース

フェルトに刺繍をいれた手帳ケース

「保育園の年長の時に、コップを入れるための巾着袋を縫う先生のお手伝いをしたことがありました。洋裁をする母親を真似て縫ったら、先生から褒めてもらい、嬉しかったです。その後、可愛がってくれていた祖母から編み物を習うようになり、小学4年生のときに、ピンクと白のベストを毛糸で編んでみたんです。最後の仕上げが難しかったので、祖母に手伝ってもらったのを憶えています(笑)」

 その後、親戚から、布地に糸をクロスさせて図案を作るクロスステッチの、壁飾り刺繍キットをプレゼントされたり、友達からミサンガの作り方を教えてもらったりしたことで、もっと洋裁や編み物が上手になりたいと強く意識し始めた。

「細かい作業は根気が必要ですけど、形が出来上がってくると楽しくなってくるんです。ミサンガは気になってすぐに作り始めたんですが、うまく出来なくて、失敗したらほどいてやり直す、ということを繰り返していました。なかなか図案通りの編目にならなかったんですけど、『絶対上手く作りたい!』って思いがありましたね。希望の編目が出来たときは、すごく達成感がありました」

無駄なものはない

上:ワンピースを作った際に余った布で作ったパソコンケース/下:布団を打ち直して作った座布団

上:ワンピースを作った際に余った布で作ったパソコンケース/下:布団を打ち直して作った座布団

 田中さんは、中学、高校とソフトボール部に所属し、外野手として練習に打ち込んだ。スパイクやグローブ、靴下などは、大切に扱っていても練習や試合で破れてしまうことがあった。それらを修繕しながら使い続けていたことが、物が壊れてもリメイクして使うなど、物を大切にすることを心がける原点になっていると振り返る。

「破れてしまったからといって捨ててしまったら、もったいないという思いが以前からありました。最近でも、古くなって耐水性が低下してしまったレインコートを流用して、ザックカバーと自転車の前かごのレインカバーを作ったんです。雨の日でも荷物を濡らすことなく、安心して自転車に乗れるようになって嬉しいです」

 それ以外にも、使わなくなった掛け布団のカバーを利用して座布団カバーを作ったり、障子紙を桜の花びらの形にカットして、破れたふすまの修繕をしたほか、冷蔵庫の棚板が壊れてしまったときには、木の板をノコギリでカットして棚板を作ったりした。

「壊れてしまっても、価値がなくなるわけではなく、修繕やリメイクをすれば、その物の命を新しく生かせると思うんです」

作ることの喜び

 田中さんが、生長の家の教えに触れたのは21歳のとき。一人暮らしを初めた際に、生長の家を信仰していた祖母が、生長の家の月刊誌を送ってくれたのがきっかけだった。

「読んでみたら、心の法則の一つである『類は友を呼ぶ』ことについて書かれていました。自分が明るくなれば、周りにも明るい人が集まってくるというのが不思議で、試してみたら実際にそうなったのが、とても印象的でした」

 生長の家の教えに感動した田中さんは、谷口雅宣・生長の家総裁や、谷口純子・生長の家白鳩会総裁の本などを読み進むうちに、現在の地球温暖化の原因が、じつは日々の暮らし方と密接に関わっていることを知った。

「本には、豊かさの源泉は自然の大いなる恵みであって、私たちは自然のおかげで生かされているけれど、自然の恵みへの感謝を忘れ、物質的な豊かさを求めて、自然界から奪い、大量生産、大量消費、大量廃棄を続けてきたことが地球温暖化の問題の根っこにあるということが書かれていました。これまでのような物を使い捨てする生活を続けていたら、地球環境は持たないと言われていますし、将来的に食料生産が厳しくなり、さらに衣類の生産も厳しくなるんじゃないかと想像してしまいます」

 そんな未来を変えるには、一人ひとりが身の周りの必要な物を、手づくりしてみることが大切ではないかと田中さんは話す。

「手づくりをしていると、心に喜びを感じて豊かな気持ちになります。そして『また自分で作れないかな?』という視点が生まれ、新しい物を買いたいという欲求がなくなっていきました。手づくりをすることで、物を大切にする意識が芽生えると思います」

 田中さんは、手づくりをしたことがない人に向けて、手づくりに挑戦するためのこんなアドバイスをくれた。

「私も以前だったら、『これは苦手だから作れないだろうな』と思うこともありましたが、神想観()を続けていたら、苦手意識が薄れて、『自分には出来ないかもしれない』と思わなくなりました。不思議なことに、道を歩いているときにも、やってみたいことがどんどん湧き出すようになったんです。もし何かを作りたいと思ったら、自己限定をせずに、『どう作ろうか?』と考える時間を楽しんで欲しいですね。一つ手づくりをしたら、改善案や次のアイデアなど様々なインスピレーションが湧いてきて、また手づくりをしたくなるんです。そうしていると、誰でも手づくりすることがきっと楽しくなってくると思います」(2020年10月17日、Zoomで取材)

 生長の家独得の座禅的瞑想法