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緑が生い茂る森下さんの庭。「山で拾った実とか、いただいた果物の種をまいて生長を楽しんでいます」

森下小夜子さん(73歳)
愛媛県四国中央市
取材/原口真吾(本誌) 撮影/髙木あゆみ

季節の果物でジャムづくり

 
 5月中旬に訪れた森下小夜子さん宅の庭は、ヤマブドウ、ウラジロイチゴ、サルナシ、ヒトリシズカなど、さまざまな山野草が青々と茂り、まるで山の中にいるように感じられた。

「葉っぱの裏が白いでしょう。だから『ウラジロイチゴ』って言うんですよ。山で摘んだ実を植えたらこんなに大きく育って、毎年たくさんの実をつけます。そのまま食べてもおいしいけれど、ほとんどはジャムにしていますね。ヤマブドウのグリーンカーテンも、元は種からなんですよ。夏の陽ざしでも葉がしおれないから、しっかりと暑さをやわらげてくれます」

 友人や親戚からはワラビなどの山菜をはじめ、梅、イチジク、柚子など、旬の恵みをしばしばいただくという。こうした季節の味をジャムにして、ヨーグルトや熱々のトーストに、たっぷりと載せて楽しんでいる。数日前にも、親戚からカゴいっぱいの甘夏をもらい、煮詰めている鍋からさわやかな香りがふんわり立ち上った。

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いただきものの甘夏でジャムを手づくりした。「今回は薄皮も刻んで入れてみました。無駄なく使い切りたいですね」

 自然の中に身を置く時間が何より心地良いと話す森下さんは、夫婦で山へドライブに出かけることも多い。この日はいつものドライブコースを案内しながら、「あそこの白い花、分かる?あれはマルバウツギね」「あ、クマノミズキ」「シャガも咲いてるわ」と、目を輝かせながら教えてくれた。

「自然は絶えず変化していて、いつの間にか咲いた花を見つけると、『元気に生きてるよ』って話しかけられているような気がします。草花の名前を知るほどに、本当に“雑草”という草はないんだなってしみじみと感じ、どれも愛おしくなってきますね。自然とふれあうよろこびは、実は長女から教わったものなんです」

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娘の成長のよろこびに目を向けて

 
 21歳で結婚し、大阪で暮らしていた森下さんは、年子で長女、長男を授かった。長女が2歳の頃、隣人から耳が聞こえていないのではと言われ、受診すると医師から、「高度難聴です。あとは教育でなんとかするしかありません」と告げられたが、さほど大きなショックを受けなかったという。

「それは生長の家の教えを信仰する母から、『人間は神の子』とよく聞いていたので、絶対大丈夫だと思えたのかもしれません。『あとは教育しだい』という医者の言葉を、『教育があるなら大丈夫』と前向きに捉えることができました」

 そして長女の耳が聞こえないとわかったときから母親教室に参加するようになり、子どもの神性を信じてほめて伸ばす、「引き出す」教育の大切さを学んだ。
* 母親のための生長の家の勉強会

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 長女は2歳からろう学校に通い、世の中には「音」があることや、物には「名前」があること、人は声を出して「意思」を伝え合っていることを学び、家でも物や動作の、絵と発音記号が描かれたカードで言葉を覚えた。やがて森下さんはカバンにカードや図鑑などを入れ、長女を屋外へ積極的に連れ出すようになった。

「言葉の獲得には体験が一番です。走る、跳ぶ、転ぶなどの動きは絵本を見せながら、花や虫などは図鑑を見せて、動作や物の名前を教えていきました。長女のおかげで、いつの間にか家族全員がアウトドア派になっていたんです」

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庭には様々ないのちが息づく

 小学校4年生からは、社会性を身につけるために、健常児が通う地元の学校に転校した。耳が聞こえない子どもが、聞こえる子どもたちと共に学ぶことは大変な努力を要したが、何とか乗り越えた。

 その後、長女は短大を卒業して、一般企業の事務職に就いた。28歳で同じ聴覚障害者の男性と結婚し、現在も仕事を続け、充実した生活を送っている。

自然への感謝に満たされる

 
 夫婦2人の生活になった森下さんは、平成17年に高齢の義父母と暮らすことになり、愛媛県に引っ越した。すぐに自然豊かな四国が大好きになり、よく山へ出かけ、ある日出合った大きなブナの木の、その幹に抱き着いたとき、何とも言えない安らぎを覚えたという。

「その安らぎがどこから来るのか分かりませんでしたが、ずっと後になって、『神さまと自然とともにある祈り』(生長の家総裁・谷口雅宣著、生長の家刊)の中にある、木々の緑や川の流れ、空の青さに感動するとき、その自然に自分の心を宿し、それと一つになっている、という内容の文章に触れて、あのときの感覚はこれだったんだと思いました。同じ地球上に生きるいのちとして通じ合ったんですね」

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椿の染液で染色

 新型コロナウイルスの感染拡大で外出を自粛していたとき、生長の家の教えを学ぶオンラインのつどいに参加して草木染めを教えてもらって以来、すっかり夢中になった。食べた後のブドウの皮や栗の外側の鬼皮、ワラビのアクを取った後の煮汁など、自然の恵みを余すことなく使わせていただくという思いで染めていて、山で摘んだ季節の花や実を使うこともあるという。森下さんは、冷凍保存していた椿の花の染液と、クサギの実を使った草木染めを見せてくれた。

 花や実を煮出した染液に生地を浸し、媒染液にくぐらせて色素を定着させる。銅やミョウバン、藁灰など、媒染の種類によって色の出方が千差万別で、最後までどうなるか分からないところが、一番の魅力だという。

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左右で異なる媒染液を使って色の違いを楽しむ。「どんな色が出るか分からないから、媒染液に浸して色がさあっと変わる瞬間が面白いんです」

「テレビや本でいろいろと勉強しましたが、ある先生は草木染めというのは植物の個性を味わうことだと言っていました。一つひとつの草花の名前を知り、その個性を味わう暮らしをしていたら、自然への関心が薄くなるなんてありえないことだと思います。自然との出合いはいつも、『ありがとう』という思いでいっぱいです」

 草花を「この子」「あの子」と呼び、そっとなでる森下さんのまなざしは、どこまでも優しかった。

○媒染液について
媒染に銅や焼きミョウバンを使用することが多いですが、重曹や石灰など自然由来の材料を使用することで、環境に配慮することができます。また、ミョウバンの媒染液を使用した際は、一晩置いてミョウバンを沈殿させ、固形物を可燃ゴミとして処理することをお勧めします。