A 国家権力を制限して、国民の人権を保障するためにあります。

 平成28年7月の参院選により、改憲勢力が衆参両院で、憲法改正の国会発議に必要な3分の2を超える議席を得て、いま、憲法改正が現実的な政治日程として浮上しています。

 ところが、改めて「憲法って何?」と問われたとき、私たちは、どれほどの知識をもっているでしょうか。

 日本国憲法の基本原理は、「国民主権、基本的人権の尊重、平和主義」と、誰もが義務教育で習いますが、憲法改正問題にしっかり向き合うために、本連載では、憲法についての基本的な疑問を通して、「憲法とは何か」を考えていきます。

憲法とは国家が守るもの

 憲法は、そもそも何のためにあるのでしょうか。誰に対して、守ることを求めているのでしょうか。

イラスト/石橋富士子

イラスト/石橋富士子

 多くの人は、「憲法は、国民が守るべきもの」と答えるかもしれませんが、国民が国家から守ることを求められているのは法律です。憲法はそうではなく、国民が国家に対して守ることを求めているものなのです。

 日本国憲法第99条には、「天皇又は摂政(せっしょう)及び国務大臣、国会議員、裁判官その他の公務員は、この憲法を尊重し擁護(ようご)する義務を負(お)ふ」と規定されています。憲法を守る義務を負うのは、国家公務員、地方公務員を含め、法律に基づいて国家権力行使を担(にな)っていく、すべての公務員です。つまり憲法を守る義務は、国家権力に課せられており、国民は国家権力に憲法を守らせる側にあります。

 それでは、なぜ憲法は、国家権力に歯止めをかけようとするのでしょうか。それは、国家権力の濫用(らんよう)や暴走により、「個人の尊厳」が脅(おびや)かされるのを防ぐためです。憲法とは国家権力を制限し、国民の人権を保障するためにあるものなのです。憲法の枠のなかで、国家権力を制限しながら国家を運営していく考え方を「立憲主義」といいます。

 次回は、この立憲主義について、さらに考えていきます。