特集解説
「デジタル思考」と「アナログ思考」のバランスを保ち、穏やかな心で生きよう
現代は、スマートフォン(スマホ)やソーシャルネットワーキングサービス(SNS)の普及、4Gや5Gなどの電波帯域の拡充などにより、益々デジタル化が進んでいて、人々のコミュニケーションの取り方がアナログからデジタルへと変化してきています。
また、デジタル化が進むことで、世の中ではセルフレジが登場したり、スマホ一つで宅配を注文できるようになったりしたほか、ネット上で簡単に自動車も購入できたりと、新たなサービスが登場し、さらに便利になってきていると感じます。
その一方で、直接誰かと会って会話をする時間や、自然の中に身を置く時間は減ってきているのではないでしょうか。SNSを使えば、遠くにいる人と会話ができたり、推しのアイドルに会えたり、海外に行くことだって“擬似的”にできてしまいます。
しかし、実際の人間社会や自然界はそんな単純なものではなく、その本質は、スマホの画面上からは見ることができません。そうした、“本当の情報”を得るためには、やはり偏った情報に踊らされることなく、自分の目・耳・鼻・口・皮膚の五感を使って直接感じることがとても大切です。
右脳と左脳のバランス
「デジタル思考」と「アナログ思考」とは、それぞれ「排他的なものの見方」と「包容的なものの見方」と言い換えることができます。また、前者は左脳が、後者は右脳がその役割を果たしています。
左脳は、物事を数値化して判断したり、役割を明確に区別したりするなど、相違点に注目する物の見方をして、効率を優先する傾向にあります。右脳は、喜びや悲しみなど複雑な心の状態を捉えたり、芸術や愛情に感動したり、物事の共通点に注目したものの見方をするなど、体験を優先する傾向にあります。どちらも重要な脳の働きであり、この2つをバランス良く働かせることが、社会生活を営む上では大切なポイントです。
デジタル化が進むことで、さらに利便性が向上した現代社会では、その恩恵を受けて日常生活を送っているうちに、「デジタル思考」に偏りやすくなります。そのため、朝の時間や休日などに意識的に外出をして、自然に触れる時間を増やすことをオススメします。
美しい自然を意識する
人間は元々自然の一部ですから、美しい草花に感動し、山脈の荘厳さを感じ、澄んだ空気や暖かい太陽の日差しに元気をもらうことができます。美しい景色や草花をスケッチしたり、プランターで野菜を育ててみたり、自転車で出掛けてみたりするなど、右脳を活性化させ、「アナログ思考」を働かせるように意識してみてください。
そして、SNSを活用する際に、その自然の美しさを喜びや感動とともに発信してみてはいかがでしょうか。心を美しいものや良い言葉で満たしていくうちに、心の奥底にあって、自覚されない潜在意識も喜びで満たされていき、目の前に拡がる世界も、さらに美しく見えてくるようになります。
デジタル社会の中にいても、右脳が活性化されて「アナログ思考」で物事を捉えることができるようになると、心のバランスが保たれ、心穏やかに過ごすことができると思います。
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林 大介(はやし・だいすけ)
生長の家本部講師補
1984年愛知県生まれ。幼い頃から一輪車、剣道、サッカー、陸上、水泳、自転車などを楽しみ、現在はキャンプにはまっている。
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特集ルポ|日々の積み重ねが思い描いた結果につながる
SE(システムエンジニア)として働く加茂貴治さんは、月に1回、生長の家の仲間と共に江の島周辺の地域清掃のボランティア活動に取り組んでいる。
懸命に掃除をしても、またすぐにごみが捨てられるが、それをまた拾う。
そんないたちごっこのような状況にもかかわらず、長年にわたって清掃活動を続けている加茂さんに、デジタル思考に偏らない生き方について聞いた。
加茂貴治(かも・たかはる)さん
神奈川県海老名市・32歳・会社員
取材●長谷部匡彦(本誌)
加茂貴治さんが、生長の家神奈川教区青年会*1の仲間たちと、江の島のボランティア清掃活動を始めたのは平成25年のこと。当時、誌友会*2に参加していた中高生たちの発案だった。
*1 12歳から39歳までの生長の家の青年の組織
*2 教えを学ぶつどい
「自分は根っからのインドア派だったんですが、こういう理由がないと外に出ないと思い、参加しました。光を反射してきらめく海面や季節によって変化する海の色、緑が多い江の島の自然を目の前にしていると、自分の心の中にたまってしまった埃が綺麗に洗い流されていくような感じがするんです。海岸清掃は、自分が自然の一部であることを思い出させてくれる、大切な習慣になっています」
取材当日、清掃活動をしている傍から、飲み干した空き缶を路上に置いていく人たちがいたが、加茂さんは憤ることもなく、黙々と清掃活動を続けていた。
「ゴミを捨てる人は、心に余裕がないんだろうなと思いますね。時折、人から『ありがとう』とか『ご苦労様です』と声をかけられます。この活動を続けていくことで、ゴミを捨ててしまう人たちに、いつか自然の美しさに気がついてもらえればいいかな位で考えています」
目の前の状況にこだわらず、長いスパンで物事を考えながら、周囲の役に立ち、なによりも自分自身が楽しむことを大切にしていると加茂さんは話す。
人と物事は変化する
神奈川県内にある5年一貫の高等専門学校(高専)*3で、コンピュータのプログラムの基本から応用について学んだ加茂さんは、現在、SEとして医療用システムの開発に携わっている。
*3 実践的な技術者を養成する高等教育機関のこと
高専時代、担任を通じて、人や物事の受け止め方について考えさせられる出来事があった。
「3年生の時に、ある教授から理不尽な理由で叱責を受けたことがあったんです。4年生に進級した際に、その教授が担任になったときは、正直最悪だと思いました(笑)。でも面談を通して、生徒に対する接し方が以前とは違うことに気がついたんです。教授に対する自分の見方が変わると、信頼して相談できるまでになりました。成績が振るわなかった時には、教授の助言にしたがうことで成績を持ち直すこともできたんです」
教授に対する反感を持ち続けていたら、良好な関係にはなれず、助言を聞き入れることもできなかったかもしれないと振り返る。そのときの経験は、人や物事が自分の受け止め方によって変化するものだ、と知るきっかけになったという。
明るい考え方を意識して
高専を卒業後、SEとして派遣会社で働き始めたが、あるとき出向先の会社から出勤日を指定された際に「その日は予定が入っているんだけど」と、思わず独り言を呟いたのが原因で、出向先から契約を打ち切られたことがあった。
「派遣会社からも退職するように求められ、不用意な発言をした自分を責めるようになってしまいました。それで、自分を見つめ直したいという思いで練成会*4に参加したんです。浄心行*5を受け、神想観*6を実修し続けるなかで、段々と心を落ち着かせることが出来るようになりました。その時に高専時代の経験を思い出し、退職も人生の出来事の一つであって、これが全てではないと一歩引いて考えられるようになりました」
*4 合宿して教えを学び、実践するつどい
*5 過去に抱いた悪感情や悪想念を紙に書き、生長の家のお経『甘露の法雨』の読誦の中でその紙を焼却し、心を浄める行
*6 生長の家独得の座禅的瞑想法
自責の念が消えて、心に落ち着きを取り戻した加茂さんは、現在の会社に転職し、新たな環境で働いている。
「転職先の上司からは、結果が全てだと言われています。結果が残せなかった時は叱責をされて、落ち込むこともありますが、以前の自分と違うのは、それを次に繰り返さないように反省し、暗い感情を抱き続けないように、別のことに意識を向けるようになったことです」
マイナスの感情に捉われないよう心掛けるようになったのは、自分の表情や発する言葉、心の中で思うことが人生をつくっていくという“コトバの力”について、生長の家で学んだからという。
「嫌な出来事などに意識を向け過ぎてしまうと、それを心の中で何度も思い描いてしまいますよね。すると、さらに落ち込むようなことを考えるようになり、それが表情や発言などに現れて、ますます周囲との軋轢(あつれき)を生むという悪循環になるのだと思います。だからこそ、辛い時でも、明るい言葉を使い、前向きな考えを持つように心がけています」
結果だけを求めても思い通りの結果は得られない
仕事柄、コンピュータに接することが多いが、スマホなどのデジタル機器を介して、欲しいものが簡単に手に入ってしまう生活の便利さに慣れ過ぎるのも、よくない面があると言う。
「例えば、外食で注文すると、たいして時間がかからずに食事が出てきますよね。時折すぐに出てこないと声を荒げてしまう人を見かけます。それは、すぐに食事が出てくることが当たり前だと思っていて、お店の人にも様々な事情があるかもしれない、と考える余裕を失っているせいなのかもしれません」
すぐに結果が出ないと満足できない自己中心的な人が増えたのも、自分と他者とをはっきりと切り分けて考えがちな、デジタル思考に偏ってしまった人が多くなっているからではないかと話す。
「コンピュータなどのデジタル機器は、二進法といって、ゼロと1の2つの数字だけで計算や表現をしています。でも、人間関係は決してそれだけでは表現できませんよね。ゼロと1の間には、本来はたくさんの少数点以下の数値が連(つら)なっているように、ある結果にいたるまでにも、様々な過程があります。だから、デジタル的な考え方だけではなく、そうした過程を大切にするアナログ的な視点を持ち、バランスを取っていくことが必要ではないでしょうか。過去の積み重ねとして今の結果があって、それも未来に向けた過程の一つにすぎないと思います。だから日々の積み重ねのなかで、おおらかに丁寧に生きることを大切にしたいです」
結果に囚(とら)われて一喜一憂せず、周囲を思いやり、今を明るい心で楽しむことが幸せに繋がるのではないかと話す加茂さんは、優しい笑顔を浮かべた。