『白鳩』特集_163_写真1

街中にある庭はまるでオアシス。「夏に打ち水をすると、鳥やチョウがわーっと集まってきます」 

中沢まみさん(55歳)
千葉県市川市
取材/原口真吾(本誌) 撮影/堀 隆弘

すべての生き物が羽を休める庭

 
 商店やマンションが立ち並ぶ通りを歩いていくと、ふいに建物が途切れ、自然のおもむきが感じられる、中沢まみさん宅の広々とした庭が現れた。

「ここは私の母の実家で、大正時代から続く家なんです。昔は田んぼが広がっていて、どの家もこんな感じだったんですよ。今ではすっかり都市化が進んでしまいましたが、公園や家の庭、ベランダのプランターなど、自然が点々とあれば虫が行き来できて、都会でも生態系の維持に貢献できると聞きました。だから、ご先祖様から引き継いだこの庭はそのひとつとして、家族だけでなく鳥や虫も一緒に暮らす、すべての生き物が羽を休める場にしたいなと思ったんです」

 26歳で結婚した中沢さんは、都内で夫と2人で暮らしていたが、千葉県市川市の家に暮らす、大叔父と大叔母、祖母の3人のことが気になっていた。30歳の時に、大叔父らが住む市川の家の敷地内に、夫婦の家を建てて移り住むことになった。

『白鳩』特集_163_写真2

草花の剪定に庭へ出た中沢さん。「ありがたいことに、毎日やることが尽きません」 

 大叔母と一緒に庭の手入れをするようになったが、もともと肌が弱く、手袋をして作業をしないと、アトピー性皮膚炎の症状が出るほどだった。やがて完成した家に引っ越すと、建材に使われた化学物質の影響か、症状がさらに悪化し、発疹が全身に出て顔も腫れあがった。どんな薬を処方されても良くならず、仕事も辞めて家にこもる日々が続き、見かねた母親から生長の家の誌友会*1に参加することを勧められた。
*1 教えを学ぶつどい

「みんな、温かく迎え入れてくれる方ばかりでほっとしました。でも、『病気は心の反映』だと学ぶうちに、私の心のどこに問題があるんだろう? どうすればいいんだろうと、落ち着かない気持ちになりました」

『白鳩』特集_163_写真3

小さなブーケのようなランタナの花

 当時の白鳩会*2の支部長から熱心に誘われて参加した5月の団体参拝練成会*3では、全身のかゆみや痛みもあった。しかし、思い切って田植えの行事に参加したとき、泥に浸かっている素足から心地良く温かい、包み込むような大地のエネルギーを感じたという。
*2 生長の家の女性の組織
*3 生長の家総本山に教区単位で参拝し、受ける練成会。練成会とは、合宿形式で教えを学び、実践するつどい

「その瞬間、『私はこのままで許されている。私はこのままでいいんだ!』と、理屈抜きの大きな喜びが湧いてきました。練成会の期間中に見た輝く鳳凰(ほうおう)のような雲、鳥たちの声、木々の葉、ツツジの花、すべてが神のいのちを生きていて、その中に私もいて、同じ神のいのちを生きていると感じたんです。アトピーは良くなりませんでしたが、焦りが消えて心が解放されました」

『白鳩』特集_163_写真4

庭を訪れたハチ

神の創造の美を感じて

 
 その後も症状が重いときはあったが、自然の中にいると元気が湧いてくるのを実感し、よく庭仕事をするようになった。そしてカメラを手に、庭の花や昆虫の写真を撮り、その愛らしさを綴ったブログを始め、常に明るい方へ心を向ける「日時計主義*4」の生活を発信し始めた。
*4 日々の生活の中の喜びや感動、明るい出来事などに心を向ける生き方

「外に出かけられなかったからこそ、すぐそばにある庭の自然の美しさに気づけるようになりました。接写用のマクロレンズを通して昆虫の目や植物の葉脈などの細部を撮影すると、とても美しく精巧につくられていて、神様が創造した世界のすばらしさを感じました。花も、中心の一点から外へと広がっていく様子は、極小から無限に広がる宇宙のようで、『一つの花の中に宇宙がある!』と感動したんです」

『白鳩』特集_163_写真5

中沢さんが生けた庭の紫陽花

 数年前に出合った新しい治療により、アトピーの症状はほとんど抑えることができるようになり、日常を当たり前に送れる幸せを噛み締めている。

 中沢さんの愛読書のひとつに、谷口恵美子*5・前生長の家白鳩会総裁の写真集『花とあそぶ』(日本教文社刊。現在、品切れ中)がある。「美しい花を/見つめるとき/童心にかえって/いつも/『どうしてなの?』/と問いかけるわたしです」という文章から始まるこの写真集には、花の写真とともに語りかけるような言葉が添えられており、その愛深いまなざしへの共感が、中沢さんの写真にも色濃く表れている。
*5 前生長の家総裁・谷口清超先生の夫人

『白鳩』特集_163_写真7

剪定した草花を母屋に持ち帰る

「咲いている花と“目が合った”とき、花から『おはよう』と声をかけられたように感じたり、花開くいのちの輝きやよろこびが伝わってくるのは、私の中にも同じいのちがあり、それが響き合っているからだと、生長の家で教えられました。花はたとえ誰も見ていなくても、置かれた場所で咲いています。見返りを一切求めない、無償の愛ですね。『咲いてくれて、ありがとう』と、いつも声をかけています。そうすると、花も微笑み返してくれるようなんです」

 通路以外の草は、なるべく刈らないようにして虫の棲み家にする。刈った草も、生ごみと共に堆肥にして庭に戻し、夏場は打ち水をして暑さをやわらげる。いのちをはぐくむ中沢さんの庭では、さまざまな草花が芽吹き、虫や鳥が集まり、たがいに生かし合う。

自然の中の私たち

 
 3月になると、庭ではハナニラがいっせいに咲き、中沢さんの愛してやまない春の到来を告げる。引っ越していったお隣の方からいただいた花や、大叔母が好きだった月見草、父方の祖母の庭に生えていた茗荷(みょうが)、母親が育てていた彼岸花などが次々と花開き、庭はやさしい思い出であふれている。

「訪れる友人も庭の花を見て、亡くなった母が好きだったとか、あの方はどうしているかしらとか、懐かしみながら話してくれます。世代を超えて咲き続ける花は、心の中の大切な人と、深いところで結びつくものなのかもしれません」

『白鳩』特集_163_写真6

庭で剪定した花を母屋の居間に飾る

 そんな大切な草花も、近年はまだ春のうちから初夏の花が咲いたり、夏は生育を妨げられるほど猛暑だったりと、気候変動の影響を受けている。昨年(2022)6月には雹(ひょう)が降り、咲き始めていたアガパンサスの花がみな落ちてしまった。その姿に胸を痛め、心を込めて世話をすると今年も花を咲かせたが、思い出の花がいつまでも変わらず咲いてくれるか、心配になることもあるという。

「私たちも自然の循環の中で生きていると多くの人が気づいて、植物を育ててくれたらいいなと思います。ひとつのプランターに花を植えるだけでも、そこに小さな生態系が生まれるんです。すべての生き物が共に生き、安らげる世界であってほしい、そんな思いを胸に庭に出ています」

 そう話す中沢さんの庭を、アゲハチョウが空高く舞っていった。