たわわに実った水野さん宅の庭のみかん。果実も皮も余すことなく、自然の恵みとして感謝していただく 水野奈美さん (56歳) 京都府南丹市 取材・撮影/永谷正樹

たわわに実った水野さん宅の庭のみかん。果実も皮も余すことなく、自然の恵みとして感謝していただく
水野奈美さん (56歳) 京都府南丹市
取材・撮影/永谷正樹

  水野奈美さんが住む南丹市美山町は、茅葺き屋根の家屋が建ち並び、日本の原風景が残る町として知られる。その山間にある水野さん宅を訪ねた。
「今年は庭のみかんの木が沢山の実をつけたんです。もちろん、農薬は使っていませんから安心してください」

 到着した記者に、乾燥させたみかんの皮を煮出して作ったみかん茶を出してくれた。柑橘系の爽やかな香りが心地よく、みかんの味もほのかに感じられ、リラックス効果がありそうだ。

 キッチンには乾燥させたスギナやヨモギの葉が置いてあり、これらも煎じてお茶にして飲むという。
「ヨモギなどの葉っぱやみかんの皮は、粉末にしてケーキの生地に入れたりします。しかし電動ミルでは粗くしか挽けず、粉にできなかったんです。それで古道具屋さんで石臼(いしうす)を買いました」

上/乾燥させた桑の葉を石臼で丁寧に挽く。ゴリゴリという心地よい音が室内に響く 下/乾燥させたヨモギや桑などの野草の葉をストックしている

上/乾燥させた桑の葉を石臼で丁寧に挽く。ゴリゴリという心地よい音が室内に響く 下/乾燥させたヨモギや桑などの野草の葉をストックしている

  石臼を見せてもらうと、想像していたものよりも小さくて可愛らしい。この日は下臼に乾燥させた桑の葉を乗せ、上臼を合わせて挽いていく。ゴリゴリという音がまた心地よい。粉末にするまでに時間はかかるが、それがかえって豊かな気持ちにさせてくれる。

 和歌山県出身の水野さんは、美山町の豊かな自然に魅せられて、平成10年に移住した。
「幼い頃から自然が大好きで、よく森に入って木々を見上げて、森との一体感を感じたりしていました。毎日の遊びの中から、自然を大切にしようという気持ちが生まれたんです」

 生長の家の「人間は神の子」という教えとの出合いは、30年ほど前に近所の人から誘われて参加した母親教室(*1)がきっかけだった。10年前、勤め先の会社が倒産し、仕事を失ったことがあったが、生長の家のSNSサイト「ポスティングジョイ(*2)」に、暮らしの中の良い出来事だけを毎日投稿し、日時計主義(*3)の生活を続けているうちに、気持ちが明るくなり、転職先も無事に見つかった。さらに自然と調和し、信仰に基づく倫理的な生き方の実践を勧める生長の家の取り組みに共感した。

 水野さんは知的障害者施設に生活介助員として勤務する傍ら、ネイチャーゲームを通して自然の大切さを伝えたいと、平成29年に「ティンカーベルなみ2自然学校」を設立した。その代表を務めながら、環境イベントなどで、主に子どもを対象にして自然観察やクラフト作りなどを行っている。

 環境保全に関する資格の取得にも積極的に取り組み、平成29年には、家庭での太陽光発電やバイオマス熱利用設備など、再生可能エネルギーの導入を推進するために活動する「京都再エネコンシェルジュ」にも認定された。
「その研修では、ソーラークッカーを作ったんです。昨年の夏、ソーラークッカーを使った調理に挑戦しました」

自作のソーラークッカー。材料が風で飛ばないようにガラス製の器をかぶせている

自作のソーラークッカー。材料が風で飛ばないようにガラス製の器をかぶせている

 ソーラークッカーは太陽光を集め、その熱で調理する道具である。様々な形状のものがあり、水野さんが作ったのは銀色の厚紙を使ったパラボラアンテナ状のもの。使い方は簡単で、中央に黒色のアルミホイルで包んだ食材をセットし、日当たりの良い場所に置くだけだ。
「ゆで卵なら夏場であれば、1時間ほどで出来ます。これまで焼きいもや焼き玉ねぎを作りました。じっくりと熱が入るからか、甘みを強く感じます。ソーラークッカーのベストシーズンは、3月の春分の日から9月の秋分の日までで、いちばん太陽の光が強いのは5月と6月なんです。多少曇っていてもちゃんと調理できますよ」

 焼きいもや焼き玉ねぎはオーブンレンジを使えば、手軽に作ることができる。しかし、ソーラークッカーには待つ楽しみがあって、時間もゆっくり流れ、それが心に豊かさをもたらしてくれる。自然のリズムと歩調を合わせた水野さんのライフスタイルを見て、そう感じた。

*1 母親のための生長の家の勉強会
*2 平成28年9月30日をもって終了した
*3 日々の生活の中の喜びや感動、明るい出来事などに心を向ける生き方